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 しかし、NPBのFA制度は、そうではなかった。有名選手は「逆指名」などで球団を自由に選択できる権利を有しながら、入団後も年数を経れば自由に移籍ができるようになる。

 FA導入によって特定球団への選手の集中が予想されたが、はたして導入後、落合博満、清原和博、工藤公康、小笠原道大など、パ・リーグ育ちの有名選手が続々と巨人に入団した。

 日本のドラフト制度は、FA制度によってさらに骨抜きにされたのだ。

 熱心な巨人ファンだった作家の海老沢泰久は、2007年、自著『プロ野球が殺される』で、このように書いた。

「ドラフト制が施行されてもう40年以上たつが、その歴史はほとんどジャイアンツがかつての既得権を回復するために、いかにドラフト制を骨抜きにするかという歴史だった。1993年に導入された新人側からの『逆指名制度』はその集大成と言ってよい」

 海老沢だけでなく、延々と続くこうした醜態に嫌気がさして、巨人ファンや野球ファンをやめた人は多かったはずだ。

 野球界は、スポーツに必須のフェアの精神が欠如し、「公正さ」や「ルール順守」への意識が極めて低いことを露呈し続けてきたのだ。

 2007年に発覚した西武ライオンズの裏金事件をきっかけとして、「希望入団枠」は撤廃され、今の、ドラフトは1位指名のみ重複した際はくじ引き、あとは前年の順位による指名という原初のシンプルな形に戻った。

■衰退の兆しとともに原初に戻った日本ドラフト

 それは、40年余を経て巨人はじめプロ野球界が改心したからではない。

 端的に言えば、プロ野球が、そこまでのエネルギーとカネを費やして入れ込むほどのビジネスではなくなったからだ。かつては、「視聴率の打ち出の小槌」だったプロ野球中継は、視聴率が5%以下のエンタメコンテンツとなり、地上波からほぼ姿を消した。

 今も両リーグ合わせて年間2500万人の観客動員があるが、プロ野球の市場は確実に縮小している。ドラフトは、今も国民の注目を集めるが、その価値は以前よりもはるかに小さくなっているのだ。

 アマチュア野球の試合には、今もプロ野球のスカウトが顔を出す。今のスカウトは、スピードガンを手にチェックシートを記入し、選手を凝視する。そして、指導者や関係者に丁寧にあいさつをする。
多くはスーツ姿で、実に紳士的。古い指導者は「昔と今とでは、スカウトのイメージは大きく変わった」という。

 スカウトにはもはや「暗躍」というイメージはない。ようやく、まともになりつつあるという印象を持つ。

 ドラフト制度導入53年、まだ世間の注目度が高いうちに、プロ野球、そして野球界は、次の世代へ向けて「共存共栄」の未来図を描くべき時にきている。

(文中敬称略)