当夜の様子、山口の記述、

((翌朝アメリカへ帰ることになっていた山口は仕事を終えた後、パッキング前の衣装などを並べて置いたベッドの端で仮眠していた。
吐いてそこら中を汚した後の詩織さんはいびきをかいて寝ていた)

>部屋に入ってどのくらい時間が経ったのか。
私がまどろんでいるとあなたが突然起きだして、トイレに行きました。
ほどなくトイレが流れる音がしてあなたが戻ってきました。
「喉が渇いたのですが、飲み物を貰ってもいいですか?」と言ってあなたがホテルの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、自分でキャップをひねって開けて直接飲みました。
下着姿であることを全く気にしていないのには少し驚きましたが、外国生活が長いせいかなと類推したのを覚えています。
そして、ペットボトルの水を何度かごくごくと飲んだあなたは、私が横たわっているベッドに近寄ってきて、
ペットボトルをベッドサイドのテーブルに置くと、急に床に跪いて、部屋中に吐き散らかしたことについて謝り始めました。
面喰った私は、ひとまずいままであなたが寝ていたベッドに戻るように促しました。
ここから先、何が起きたかは、あえて触れないこととします。
あなたの行動や態度を詳述することは、あなたを傷つけることになるからです。
はっきり言えるのは、私はあの日、あなたに薬物を飲ませたり、嫌がるあなたを部屋に連れ込んだりしなかったのと同様に、
部屋の中でもあなたの意思に反する行動は一切していないということです。
もうひとつ強調したいのは、トイレから戻った後のあなたは、立ち振る舞いもしゃべり方も正常で、すっかり酔いから醒めたように見えたということです。
それまでに複数回にわたって大量に嘔吐したあと、熟睡したので、それで楽になったのかなと思いました。
その後しばらくして、あなたはまた眠りに落ちました。
あなたは「朝まで意識がなかった」のでは決してなく、未明の時間に自ら起き、大人の女性として行動し、そしてまた眠ったのです。(262頁)