元プロ野球選手の森本稀哲(ひちょり)さんが著書『気にしない。』を上梓した。ポジティブに生きるためのヒント満載のこの著作、背景には森本さんが乗り越えてきた壁がある。

 その人にしか書けない物語がある。「ひちょり」こと森本稀哲さんが書いた本作は、まさにそんな作品だ。テレビで見た現役時代の剽軽(ひょうきん)で元気なこの人しか知らなかったが、小学1年の時に原因不明の汎発性(はんぱつせい)円形脱毛症で髪の毛を失い、内向的で人の視線を気にする少年時代を過ごした。

「上級生が突き刺すような言葉を言ってくるのが一番つらかったですね」

 1000万ハゲ!──。上級生からの心ない言動に、言い返すことができず傷ついた。

 そんな少年時代から、帝京高校を経て1999年に日本ハムファイターズ(当時)に入団し、ケガやスランプに苦しんだ日々や、2015年に現役引退を決めた時の心境まで包み隠さずつづった。高校生になっても「あそこの毛」が生えてこないことも。

「僕のすべてを書きましたから(笑)」

「気にしない。」──。本の表紙に大きく書かれた真っすぐなタイトルが、目にとまる。何かに悩んだり壁にぶつかったりした時、ひちょりさんがたどり着いた答えだ。

「『この病気ツラい』と思い込んで心にブレーキをかけ、治るのを妨げていたのは僕自身だったんです。髪の毛のことを気にしなくなったら、肩の荷がストンと下りました」

彼を変えたのが、小学4年で始めた野球だった。のめり込み、結果を出すと髪の毛のことで笑う者は誰もいなくなった。やがて「髪の毛なんて関係ねぇ」と思えるようになり、「ハゲ」はコンプレックスではなくなったと笑う。

「すると、不思議なことに髪の毛が生えてきたんです」

ハゲてるのはイヤだという思い込みが、治るのを妨げていたのかもしれないと振り返る。そもそも「ハゲ」と言ってバカにしていたのはごく少数、自分は過剰に反応しすぎていたのではないか、と。

「一番の障害は、自分自身が障害だと思うこと。もうだめだ、もう進めないと思うマイナス思考こそ障害。大切なのは、自分の気持ちです」

 とは言え、思い込みのブレーキを外すのは難しい。悩みを克服し壁を乗り越えるのも大変だ。だが、こう話す。

「笑うやつには笑わせておけばいい。時間がかかるかもしれないけれど、頑張っていれば『たいしたことなかった』と思える日がきっと来ます。そもそも、いいことばかりじゃあ、そんな人生、面白くないでしょ」

 剽軽者「ひちょり」の、もう一つの顔が見えた。(編集部・野村昌二)

※AERA 2017年10月16日号

〈AERA〉10/15(日) 16:00配信 
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171013-00000058-sasahi-base

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