【モスクワ=黒川信雄】2018年にロシアで開催されるサッカー・ワールドカップ(W杯)のスタジアム建設に
昨年、約110人の北朝鮮労働者が不透明な形で関与し、死者も発生していた実態が明るみに出て波紋を呼んでいる。
問題を詳報したノルウェー誌に協力したロシア人ジャーナリスト、アルチョム・フィラトフ氏(29)は、
取材から北の労働者が「最悪の条件」で働いていた事実が浮かび上がったと述べた。

問題が発覚したのはロシア西部サンクトペテルブルクにある「ゼニト・アリーナ」。
2006年に建設が決まったが工事は遅れ続け、市政府高官が昨夏、アリーナと無関係の建設企業なども集め
「資金協力するか、労働者を提供するか」(フィラトフ氏)を迫ったという。
断れば公共工事を受注できなくなるとの懸念から各社は要請に応じ、一部が北朝鮮労働者の提供を申し出た。
彼らは16年9〜12月にかけ建設作業に参加した。

中央アジアなどからも多数の労働者が集められたが、現場は混乱。
落下や感電などの死亡事故が相次ぎ、11月には北朝鮮労働者も1人死亡した。
死因は心臓発作とされるが、「1日12〜14時間、休日なしで働いていた」(フィラトフ氏)といい、
厳しい労働が起因した可能性がある。

フィラトフ氏らの調査によると、サンクトペテルブルクには北朝鮮労働者を専門に扱う建設会社が10以上あるとされ、
彼らは他国からの労働者の3分の1、1日10ドル(約1100円)程度の給与しか支払われていないという。
彼らは集団で生活し移動の自由もなく、休日なしの長時間労働が恒常的に行われている。
受注額の多くは、北朝鮮政府に納められているとされる。

米メディアによると、国際サッカー連盟(FIFA)もゼニト・アリーナの建設に北朝鮮労働者が使用された実態を認識しており、
人権上の観点から強く問題視しているという。ゼニト・アリーナをめぐってはかねてから、
巨額の建設資金が不透明な理由で使途不明になったり、市政府高官が横領で逮捕される問題が繰り返されている。

ロシアの公共事業は、不正な資金の流用で費用不足に陥り、
最終的に立場の弱い現場作業員が不当な低賃金労働を強いられるケースが後を絶たない。
フィラトフ氏は今回の問題の要因も、ロシアの汚職体質にあると指摘する。

http://www.iza.ne.jp/kiji/world/news/171012/wor17101209300002-n1.html