これらのクラブは、Jリーグが動画配信サービス「DAZN(ダ・ゾーン)」を運営する英国の「パフォームグループ」と放映権契約を締結し、
賞金総額が大幅にアップした今シーズンに向けて、大型補強を敢行した。

しかし、有名選手、スター選手をチームに組み込むのに苦戦し、成績が低迷する間に監督が解任された。
十分に補強資金を使っているだけに、監督に課せられたハードルは高く、チーム作りの時間もあまり長くは与えられなかった。

もうひとつ、近年のJ1に増えつつある現象として、『コーチ昇格の落とし穴』が表れたのが、大宮、鹿島、FC東京のケースだった。

近年のJ1では、前任監督の解任時にコーチを昇格させ、暫定ではなくそのまま指揮を執らせる人事が急増している。

短期的には効果が見込める。なぜなら、低迷時に間近で見続けていたコーチがチームを引き継ぐため、前任者のマイナス面をわかっており、最小限の戦術的な手当て、あるいは選手起用の変更で、
チームを立て直すことが可能だからだ。監督を解任しても、大きな混乱が起きないのは大きなメリットだ。

ところが、落とし穴が2つある。もともとがコーチなので、チームの修復に成功し、最初の結果を残した後、次の段階へチームを導く過程でつまずきやすい。
監督とコーチは、経営者と技術者ほど違う。大宮の渋谷洋樹元監督も、鹿島の石井正忠元監督も、指導手腕としては疑いのない力量があったが、監督として考えると、選手の心に寄り添いすぎてしまい、規律を徹底させる厳格さに欠けた。

もうひとつの落とし穴は、現場の混乱だ。このようなコーチ昇格が2度、3度と続けば、監督がコーチを信頼することが難しくなる。
つまり、本来は右腕であるはずのコーチが、いつ自分の椅子をねらってくるのか、その野心に対して疑心暗鬼になるからだ。

そのような事情もあり、欧州サッカーでは「監督は一生監督、コーチは一生コーチ」と考えられており、監督はチームに就任するとき、
自分の右腕コーチやスタッフを連れて、一緒に移籍するのが通例だ。しかし、昨今のJ1は、サッカーの常識に反する手法が大流行しており、そのデメリットがいくつか発生しているのではないか。

コーチ昇格を全否定するわけではない。たとえば、ペトロヴィッチ元監督の後任として、コーチ昇格(2007年〜2009年/広島コーチ)で広島を率いた森保元監督は、
3度のリーグ優勝を成し遂げ、堂々と5シーズンの指揮を執った。コーチ昇格が必ずしもダメというわけではない。

しかし、コーチ昇格は、チーム作りの手法としては邪道。異なる生業の人物に監督を任せている認識と、慎重さはもっと必要だ。
現在も川崎の鬼木達監督、鹿島の大岩剛監督が、コーチ昇格の監督としてチームを好調に導いているが、短期的に結果が出やすいのはコーチ昇格の特徴でもある。
この瞬間は良くても、先はわからない。下手をすれば、解任と修復の自転車操業で、何年たってもクラブは成長できないかもしれない。

J1クラブは、J2やJ3などで“監督として”、手腕を発揮している指導者に、もっと注目するべきだろう。少なくとも欧州主要リーグは、そのような仕組みで監督がステップアップを果たしている。Jリーグは特殊だ。

 今シーズンの監督交代は、やむを得ないと考えられるケースと、クラブの強化方針そのものに疑問符が付けられるケースに分かれる。DAZNマネーによって潤ったJクラブ。
その資金をどのように使うべきか。クラブの質により、大きな差が生まれるのではないか。(文・清水英斗)