反対した人たちに、取って間違いなかったと思わせないと、ミスターに恥をかかせることになってしまいますからね。
そのモチベーションがあったから、こういう野球生活を、僕は送ってこられた。

でも、恩返しもできず、ミスターは辞めちゃったんですよ。自分の気持ち的にはどん底でしたね。それで、ミスターに話したんです、“もう野球を辞めます”って。
そしたら、ミスターは“V9時代の後を、お前たちが受け継いでいくんだ”って言われて、思いとどまった。

やっぱり、ミスターっていうのは、別格なんですよ。野球界の中で、悪く言う人、誰もいないでしょう。
いるだけで、みんなの表情がほわーっとなる。誰か悪く思っている人がいたら、あんな空気になりませんよ。

僕は、選手時代も、コーチ時代も、ミスターがグラウンドにいると、どうしても目で追ってしまう。
一挙手一投足、見ていますよ。ピッチャーが球を投げた瞬間とか、フライを取った瞬間、どういう表情なのかなと、見ていて、とても楽しい人なんです。

付き合いは長いんだけど、いまだに自分から、話しかけられない。
近くにいって、話しかけてくれるのを待っているって感じですから。中畑さんとは違うタイプ(笑)。
サインが欲しいときは、自宅に行くんだけど、ミスターの運転手に、色紙を渡してお願いしますからね。

嵐が吹いていても、ミスターがくるとカラッと晴れちゃう。
ああいうスターはもう出てこないでしょうね。そんな大スターに導かれた野球人生ですから、もう一度ユニフォームを着られるなら、着て、恩返ししたいですよ。
声をかけられたらいつでも動けるよう、準備はできていますから。


篠塚和典 しのづか・かずのり
1957年7月16日、千葉県生まれ。銚子商業高校に入学し、2年の夏に全国制覇。76年にドラフト1位で巨人に入団。
81年に二塁手としてレギュラーになると、打率.357と、リーグ2位の好成績を残す。
84年に打率.334、87年には打率.333で2度、首位打者を獲得。94年に現役引退。
引退後は巨人のコーチを務め、WBCコーチも歴任。
通算成績1651試合、1696安打、92本塁打、打率.304。ベストナインを5度、ゴールデングラブ賞を4度受賞。