オーストラリア戦では、ザッケローニ監督時代からつい最近まで、一緒に代表の主軸を務めてきた本田と香川はベンチに座っていた。長友から見れば、違和感を覚えるような光景だったと思うが、どういう心境だったのだろうか。

「もちろん、圭佑と真司がいれば、チーム全体の落ち着きも変わっていただろうし、その彼らがいないっていうのはね……。でもその分、僕や長谷部(誠)さんら経験がある選手が声を出して、(チームを)まとめていかなければいけないという気持ちが強かった。ですから、今まで以上に声を出していました」

 本田や香川がいない中、長友はよく声を出してチームを引っ張っていた。浅野拓磨の先制ゴールをアシストしたあとには、ゴール裏に行って両手を振り上げ、ファンやサポーターを盛り上げた。「アドレナリンがめちゃくちゃ出ていたんで、気づいたら観客を煽(あお)っていた(笑)」というが、そうやって長友が先頭に立ってチームを盛り立てることに意味がある。

 本番となるロシアW杯まで、すでに1年を切っている。

 ブラジルW杯では1勝もできずに悔しさばかりが募った。それだけに、長友にはロシアW杯にかける特別な思いがある。

「ブラジルW杯(での自分)は、クソみたいなプレーだったし、チームにまったく貢献できなかった。あんな思いは二度としたくないし、あの悔しさは今もずっと心の中に残り続けている。それを晴らすにはW杯で活躍する以外にないんですよ」

 しかし、ハリルホジッチ監督からロシア行きの約束手形をもらっている選手は、おそらく主将の長谷部ら数名だけではないか。現状レギュラーの長友でも、今後所属のインテルで出場機会を失って試合勘が鈍り、コンディションを落としていくようなことがあれば、日本代表のレギュラーどころか、招集さえされなくなる可能性もゼロではない。

「監督は、相手によって戦術も、選手も代える。それが、最終予選で実証されたので、W杯でもどこと対戦するかによって、戦術や選手を大きく代える可能性がある。

 ただそういう状況の中でも、選手個々がもっと成長していかないと、世界では勝てない。日本代表の選手全員がインテルに来て、(年俸)数十億円の選手たちとレギュラーを争ってポジションを奪うくらいじゃないと、本当の意味での勝負が世界とはできない。

 まあ、それは現実的ではないけど、(選手個々に)努力はできると思うんです。そういう意識をどのくらい、選手ひとりひとりが持てるか。本番まで、それがすごく大事になりますね」

 長友は厳しい表情でそう言った。

 もっとも長友は、来年のロシアW杯でブラジルW杯のリベンジを果たす準備を、すでに着々と進めている。現在行なっている日々のトレーニングや食事によって、今のコンディションはすこぶる良好だという。「やってきたことが『間違っていなかった』と確信できた」と胸を張る。その証として、オーストラリア戦では豊富な運動量で動き回り、キレのあるプレーを随所に見せた。

 予選突破という大きな仕事をひとつ終えた。だが、本当の勝負はこれから始まる。日本代表に生き残り、W杯に置き忘れてきたものを取り戻すため、長友の地道な努力は続いていく。

佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun

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