アウェイ、アンフィールドで迎えたリバプール戦
前半から押され気味に試合を進められ失点、後半も勢いを見せず惨敗だった
スタジアムに響くファンのため息、どこからか聞こえる「今年は降格だな」の声
無言で帰り始める選手達の中、監督のベンゲルは独りベンチで泣いていた
03-04シーズンに手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できるスカッド・・・
それを今のアーセナルで得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすりゃいいんだ・・・」ベンゲルは悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、ベンゲルははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たいベンチの感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、戻って会見をしなくちゃな」ベンゲルは苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、ベンゲルはふと気付いた

「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」
ベンチから飛び出したベンゲルが目にしたのは、ハイバリーを埋めつくさんばかりの観客だった
千切れそうなほどに旗が振られ、地鳴りのようにアーセナルのチャントが響いていた
どういうことか分からずに呆然とするベンゲルの背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「監督、試合です、早く行きましょう」声の方に振り返ったベンゲルは目を疑った
「ベ・・・ベルカンプ?」  「監督、居眠りでもしてたんですか?」
「キ・・キーオンコーチ?」  「なんですか、かってにキーオンさんを引退させて」
「アンリ・・・」  ベンゲルは半分パニックになりながらスコアボードを見上げた
GK:レーマン RB:ローレン CB:トゥレ キャンベル LB:コール
MF:ヴィエラ ジウベルト ピレス リュングベリ FW:ベルカンプ アンリ
暫時、唖然としていたベンゲルだったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「勝てる・・・勝てるんだ!」
ライスから資料を受け取り、ベンチに座るベンゲル、
その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、ベンチで冷たくなっているベンゲルが発見され、サンチェスは機内で静かに微笑んだ