<人種差別>「ナチス」旗でJ1応援 痛み想像する力の欠如
8/18(金) 8:30配信

ドアを開けると熱気がこもっていた。7月29日、大阪市内のスポーツバー。
J1大阪ダービーでガンバ大阪がセレッソ大阪に逆転勝ちすると、約30人が歓喜して抱き合った。

彼らは解散したガンバサポーター「スレッジハンマー・ブロス」。
4月の試合でナチス親衛隊のSSマークに酷似したデザインの旗をスタジアムに持ち込み、
10〜50代の83人全員が無期限出入り禁止になった。今は、この店で応援を続けている。

先の大戦でナチス・ドイツがユダヤ人を大量虐殺した「ホロコースト」。
忌まわしい記憶を呼び起こす旗がなぜ振られたのか。私は関係者を捜し歩いた。

デザインを7年前に作った男性メンバー(52)が取材に応じた。
インターネットで見たSSマークを「シンプルで格好良く、力強い」と気に入って、ほんの少し手を加えた。
「自分たちのオリジナルデザインだ」

ガンバ側は数年前に旗を使わないよう注意したが「ルール徹底が甘かった」と認める。

4月に旗を持ち込んだのは自営業の男性だった。「SSマークの意味は知っていたが、全く同じではない。
人種差別の意図はなく、使っても大丈夫だと思った」と繰り返し、こう言った。「被害者がいるなら謝りたいが、それが誰なのか分からない」

今回の問題は、日本で活動するユダヤ系アメリカ人ジャーナリストのダン・オロウィッツさん(31)がツイッターで指摘した。
「この旗が許されたら次は何が許されるのかと心配した」と振り返る。

祖父は18歳でドイツ軍捕虜になり、ユダヤ系であることを隠して生き延びた。
「歴史を繰り返させないことはユダヤ人の、それ以前に人間としての責任だ」。
旗の問題を指摘すると、ツイッターなどで「国へ帰れ」とも批判された。
だが、それよりも残念だったのは「日本人から、ユダヤやナチスの問題を知りたいという声がほとんどない」ことだった。

人種差別追放は世界のサッカー界の課題だ。
日本では3年前に浦和レッズのサポーターが外国人排斥と読める「JAPANESE ONLY」の横断幕を掲げ、
Jリーグが差別的な言動などをまとめた参考資料を各クラブに示した。SSマークも含まれていた。

村井満チェアマン(58)は「サッカーは常に世界とともにある。日本の試合も世界で見られている」と語る。
「スタジアムには郷土愛やチーム愛があふれている。だが、強い同質性や絆の裏側に、差別の芽が潜んでいるという自覚が必要だ」

全日本大学サッカー連盟は昨年、イングランド・プレミアリーグのチェルシー元監督でユダヤ系のアブラム・グラントさん(62)を招き、
家族で唯一ホロコーストを生き延びた父の人生を話してもらった。
多くの学生が話をのみ込めない様子だったため、
今春にはNPO「ホロコースト教育資料センター」(東京)の石岡史子理事長を招いた。

ホロコーストの生存者から直接話を聞いている石岡さんは学生たちに思いを伝えた。
「差別が人の命を奪った。無自覚なものも含め人は誰でも差別の考えを持つ。だからこそ日常が大事だよ」

国際社会は、決して忘れてはならない歴史があると私たちに警鐘を鳴らす。
知識だけではなく、当事者の痛みを想像する力が試されているように思う。

問題の旗を持ち込んだ男性は処分を納得できずにいるが、家にホロコーストの本があったことを思い出し、読み返してみた。
「ガス室に送られた人たちの立場なら、旗のデザインに耐えられないかもしれない」。そう感じ始めている。【石川将来・28歳】


ナチス親衛隊のSSマークに酷似した旗を振った問題で解散し、スポーツバーで応援を続けるガンバ大阪のサポーター「スレッジハンマー・ブロス」の元メンバー。
記者に「ナチスへの信仰や政治的な意図がなかったことは分かってほしい」と訴えた=大阪市内で、川平愛撮影
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