今年の「夏の甲子園」は、1回戦から甲子園優勝経験のある強豪同士の対決に沸いた。
出場校の中で、異彩を放っていた2校があった。

どこかと言えば、東筑(福岡)と彦根東(滋賀)である。
今回の49代表のうち8校しか出場していない公立高校であり、しかもこの2校の場合、県内有数の進学校だからだ。

東筑は今年のセンバツで8強の福岡大大濠を県大会決勝で破っての甲子園出場。
彦根東も、センバツ出場の滋賀学園を県大会3回戦で撃破し、甲子園に乗り込んできた。

【8月16日13時30分追記】
初出時に「今年のセンバツで早稲田実業(東京)を破った福岡大大濠」と表記していましたが、早稲田実業を破ったのは東海大福岡でしたので、訂正いたしました。

■今夏の甲子園に臨んだ2つの「公立進学校」

東筑は1回戦で全国優勝経験のある済美(愛媛)に敗れた。
だが、彦根東は波佐見(長崎)にサヨナラ勝ち。

春夏通算5度目の出場で、甲子園初勝利を挙げた。
その彦根東も2回戦では青森山田(青森)に2対6で敗れて涙を飲んだが、終盤にファインプレイやホームランが飛び出して甲子園を大いに沸かせた。

青森山田に敗れたあと、彦根東の村中隆之監督はこう語った。
「私がなにげなく言ったことでも、その意味をかみ砕いて、自分たちで考えて、モノにしてくれました。
公立高校では、選手を集めることはできません。だから、集まった人間を育てる。それしか勝つための方法がない」。

今年、夏の甲子園で論争を呼んだのが、下関国際(山口)の坂原秀尚監督の発言だ。
日刊ゲンダイが8月12日に配信したインタビュー記事で「『文武両道』って言葉が嫌いなんですよね。ありえない」と言い切ったことが話題になった。

だが、彦根東の野球部員にとって、文武両道は当たり前のことだという。野球のためにすべての時間を使うことはできない。ただ、「当たり前」に要求されることだといっても、もちろん「簡単にできる」というわけではない。「文武両道は、大変ですよ。やはり、野球部員にとっては時間を工面することが難しい」と村中監督は言う。

 一方、野球エリートを集める強豪高校では、思う存分、練習に時間を割くことができる。
寮が完備している高校であれば食事の面でのサポートも行き届いている。
さらに野球のための設備も充実しているから夜間までトレーニングすることが可能だ。

かつて青森山田で監督を務め、8度の甲子園出場を果たした澁谷良弥氏は私立の強豪校のメリットについてこう語っている。
「青森山田ではほとんどの選手が寮生活で、ウエイトトレーニングの設備も充実していました。
練習する環境としては申し分ない。寮があることのよし悪しはありますが、いくらでも練習できることはありがたい。
自覚を持って練習する子はぐんぐん伸びます」。

文武両道を掲げる進学校と野球にとことん打ち込む高校とではもちろん、チーム強化のアプローチは違う。
もっと言えば、野球優先の学校のなかでも、やり方はそれぞれ。
全国から逸材を集めて競わせる大阪桐蔭(大阪)のような強豪校もあるが、多くは「原石」を磨きあげて強くしようとしている。

高校生活は3年間だといっても、野球に打ち込む球児たちの選手生活はそれよりかなり短い。
一人の選手が高校で実際にプレイできる時間は、入学した1年春に始まり、それから3年の夏が終わるまでの2年4カ月か5カ月の間。
同じ日刊ゲンダイの記事で坂原監督が言った「自主的にやるまで待っていたら3年間終わっちゃう」という言葉には多くの監督がうなずくことだろう。

「ほかの高校が5時間練習するなら、ウチはその倍はやらないと勝てない」。
かつてそう語ったのは智弁和歌山の高嶋仁監督だ。
高嶋監督は、言葉どおりの猛練習を選手に課し、春夏あわせて3度の全国優勝(準優勝3回)を手にした。

だが、その方法が未来永劫、正しいとは限らない。
智弁和歌山は2000年夏を最後に、日本一から長く遠ざかっている。
かつて常勝を誇った高校が、やがて強さを保てなくなるのは、「正しいこと」が時代とともに変わっていくからではないだろうか。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170816-00184651-toyo-soci

※続きます