ヘタフェのホームスタジアム、リセウム・アルフォンソ・ペレスに大きな歓声がこだました。

 新シーズンのチームお披露目となったプレシーズンマッチ、ヘタフェ対アトレティコ・マドリードの一戦。先発した柴崎岳が64分、ダブルタッチで相手DFをかわしてパスを送ると、ヘタフェサポーターはもちろん、記者席のスペイン人記者も声を上げた。「今日の一番のプレーをしているのは柴崎だな」と声をかけてきた記者もいた。

 試合の結果は0対0。終盤にフェルナンド・トーレスがエリア内フリーの決定的なチャンスをふかすというミスがなければ、アトレティコ・マドリードが勝利を手にしていてもおかしくない試合であり、両チームともゴール前での緊迫した攻防が少ない試合でもあった。

 昨シーズンのプリメーラ(1部)3位とセグンダ(2部)3位の対決は、その実力差どおりに、序盤からアトレティコが主導権を握っていた。だが、後半になるとホームチームがリズムを掴み始める。その中心にいたのが、ボランチではなくこの日もトップ下でプレーをした日本人MF柴崎だった。

 50分、ゴール前中央でパスを受けた背番号10番は、俯瞰でピッチを見ているかのように相手DFの虚を突くスルーパスをホルへ・モリーナに送る。パスはわずかにずれてしまったが、通ればGKと1対1という場面を作り出すアイデア溢れるプレーは、スタンドのため息を誘った。

 そして前述の64分のプレーも生まれ、77分にカルデロンと交代した際には、柴崎をチームの戦力として認める大きな拍手がスタンドから送られた。昨日の敵は今日の友。昨季の所属チーム、テネリフェサポーターにしてみれば柴崎が活躍すればするほど歯がゆい思いをすることだろうが、ヘタフェサポーターにとっては、新シーズンの目標であるプリメーラ残留に向けてチームの攻撃にアクセントをつけることのできる大事な戦力として、日本人MFを認知した瞬間だった。

 リーガエスパニョーラ開幕まで残り1週間。普通で考えればチームのお披露目試合となったこの日の先発メンバーがサン・マメスでのアスレティック・ビルバオ戦で再現される可能性は高い。傍から見ても柴崎のパフォーマンスはとてもいいものだった。

 ただ、ホセ・ボルダラス監督は試合後の記者会見で、柴崎を高く評価するとともに課題も挙げている。

「コンセプトをしっかりと理解しているし、しっかりとボールのないところでも頑張ってくれている。ボールを受け、ためを作るということはできていないが、彼はそういうタイプの選手ではない。ゲームを作ることができる足元の技術がある選手だ。プレッシャーをかけられてもボールをキープするという点を改善していかなければいけないが、これからよくなっていくだろう」

 すでにジローナ戦では得点を決めているし、アトレティコ戦では得点にはつながらなかったがスタンドをうならせるプレーをして、リーガの強豪相手にしっかりとしたパフォーマンスを見せることができた。これは柴崎にとってもこのプレシーズンの中での大きな収穫であり、自信となるものといえる。

 開幕戦で定位置確保の速報を打つにはまだ時期尚早かもしれないが、8月20日、真っ赤なスタンドにに囲まれたサン・マメスのピッチの上に、青いユニホームに身をまとった背番号10番が立つ可能性は十分にある。そして、その日本人MFがプリメーラ昇格を果たしたヘタフェに歓喜をもたらすことも、決して夢物語ではないだろう。

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