それでも、アビスパ福岡の井原正巳監督は満足げだった。
「立ち上がりからいい形でゲームに入れて、チャンスも多く作れた。前半はゴールを奪えなかったが、後半にいい形でゴールが生まれ、最後まで全員が戦う姿勢を持ち、集中力を保って戦い、1−0で逃げ切ることができた」
選手たちの奮闘を称える、アビスパ福岡の井原正巳監督。 J2第26節の町田ゼルビア戦。現在、J1自動昇格圏内である2位につける福岡は、14位の町田をアウェーゲームながら1−0で下した。
試合序盤から主導権を握ったのは、福岡である。大きなサイドチェンジを有効に使い、サイド攻撃から何度も決定的なチャンスを作り出した。シュート数を見ても、町田の7本に対して福岡は13本。得点こそ後半(57分)まで待たなければならなかったが、どちらが有効な攻撃を、より多く繰り出していたかは明らかだった。
気持ちよさそうにオーバーラップから何度も攻撃に加わった左サイドバックのDF亀川諒史が語る。
「試合前の分析で、町田は4−4−2の『4−4』(MFとDFのライン)のところが、ピッチの半分に全員が収まるくらいボールサイドに絞ってくることはわかっていた。なので、すごく空いている逆サイドを徹底的に突いていこう、と。特に前半はほとんど相手に何もさせず、やりたいことができた」
とはいえ、冒頭にも記したように、勝った福岡が非の打ちどころのない試合をしたわけではない。
例えば、リズムがよかった前半にしても、20分を過ぎたあたりからペースダウンして単調な攻撃が多くなっていたし、後半の立ち上がりは、ハーフタイムを挟んで息を吹き返した町田に対し、明らかに劣勢に回っていた。
また、1点をリードしてからは、なかなか落ち着いてボールを保持することができず、簡単にボールを失うケースが増えた。その結果、町田に何度もペナルティーエリア内への侵入を許し、特にロスタイムを含めたラスト10分ほどは、冷や汗ものの展開が続いた。
それでも、福岡の選手や監督から前向きな言葉が数多く聞かれたのは、勝利という結果だけが理由ではあるまい。自分たちの狙いどおりに進められた攻撃はもちろん、ピンチも含めて試合で起きたことのほとんどが想定内であり、つまりは、自分たちのコントロール下で試合を進められた手ごたえがあったからだろう。
亀川は「前半の押し込んでいた時間で試合を決められるのが理想だが」と前置きしたうえで、こう話す。
「相手がいるのがサッカー。圧倒的に押していても点が取れずに負けてしまう試合もあるなかで、(点が取れなくても)焦れずにやろうというのは、今年、チームでずっと言ってきていること。1点しか取れなかったが、こういう試合を落とさず、勝ち切れたのは大きい」
今季J2は第26節を終えて、湘南ベルマーレが勝ち点53で首位に立ち、わずか勝ち点1差で2位の福岡が追っている。その一方で、2位の福岡と3位のV・ファーレン長崎とは勝ち点8差。3位の長崎(勝ち点44)から11位の水戸ホーリーホック(勝ち点39)まで、勝ち点5差に9クラブがひしめているが、3位以下のそんな大混戦を尻目に「2強」の様相を呈している。
今季の福岡は、1点差の勝利がこの日の町田戦で10試合目。スコアレスドローも含めた無失点試合はこの試合で13試合目と、勝負強さと堅守が目立つ。
井原監督も「(夏の移籍で加わった)新しいメンバーも入り、意思統一のところをもう少し高めないといけない」としながらも、「無失点は全員の気持ちによるもの」と選手を称える。ここまでの総失点20はJ2最少、得失点差プラス17はJ2最多と、2強にふさわしい安定した戦いを福岡が続けていることは、数字も証明している。
だが、混戦から頭ひとつ抜け出た現状には、「難しさもある」とキャプテンのMF三門雄大は言う。
「今は湘南を追いかける立場。勝ち点3を取っていかないといけない」
2強状態とはいえ、2位は2位。まずは、それが三門の本心である。
ところが、勝ち点で水をあけられている3位以下のクラブは、2強にひと泡吹かせてやろうと、福岡には目の色を変えて挑んでくる。それを考えれば、今の福岡は挑戦者でばかりはいられない。「今は(自動昇格圏内の)2位をキープしているので、苦しい試合では勝ち点1を取ることも大事」なのである。