<甲子園>古き良き時代の天然記念物? 高校野球の人気復活

 サッカー人気に押され気味だった高校野球が、実は勢いを取り戻している。夏の全国大会で阪神甲子園球場を訪れた観客の総数は一時60万人台まで落ちたが、2008年から昨年まで9年連続80万人を突破した。こんな高止まりは過去に例がない。8日に開幕した今年の甲子園はどうだろう。【福永方人/統合デジタル取材センター】

 ◇93年Jリーグ発足後の落ち込みから復調

 人気の回復ぶりは総観客数の推移で一目瞭然だ。1983年からの推移を見ると、3年生の桑田真澄、清原和博を擁するPL学園が優勝した85年以降、80万人超えが続く。沖縄水産が初めて準優勝し、1年生の松井秀喜が星稜の4番打者で登場した90年は92万9000人と過去最多だった。

 だが、Jリーグが発足した93年に80万人を割り、一時は60万人台に落ち込む。98年は横浜の松坂大輔の活躍などもあって89万人を上回ったが、勢いは続かなかった。

 2000年代半ばに回復基調となる。早稲田実業の斎藤佑樹と駒大苫小牧の田中将大が決勝で投げ合い、引き分け再試合にもつれこんだ06年、久しぶりに80万人を突破。その後は高止まりし、昨夏も前年より減ったが83万7000人で、9年連続の80万人超えとなった。これは統計が公表されている1958年以降初めてだ。

 甲子園球場の収容人員は改修工事により、2009年に従来の5万5000人から4万7000人に減った。日本高校野球連盟の竹中雅彦事務局長は「近年は注目校や地元の近畿勢が勝ち残らなくても観衆が多い。球場改修がなければ毎年100万人に達しているかもしれない」と話す。

 ◇「ハンカチ王子」がファン層広げる

 早実の清宮幸太郎のほかには、社会現象となるほどのスター選手は近年見当たらない。それでも人気が堅調な理由について、作家の岩崎夏海さんは「高校野球の『いま』を象徴する“ハンカチ王子”斎藤佑樹の出現がファン層を広げた」と分析する。「マウンドで汗をハンドタオルで拭うさわやかな姿は、従来の泥臭い球児像も拭い去った。指導法も戦術も時代とともに変わり、彼はその変化を強烈に印象づけました」

 かつて高校野球は「スポ根漫画」の王道だった。だが、80万人台を回復して間もない09年、岩崎さんが発表したベストセラー小説「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(「もしドラ」)は、それらと一線を画している。

 高校野球の魅力は何か。岩崎さんは言う。「炎天下で投げ続ける投手を見ると心が浄化され、勇気をもらう。投手のような存在がいないサッカーでは、こうはなりません」

 「高校野球の経済学」の著者で慶応大商学部教授の中島隆信さんは「市場原理や経済効率が重視される中、高野連のもと商業性を排除した天然記念物のような高校野球の存在価値が高まっている」と指摘する。「一部の私立校が『プロ野球予備軍』化しているような側面もあるが、すそのまで含めると、全体としては純粋さを保っている。世の中が目まぐるしく変わる中、甲子園は『古き良き時代』を懐かしむ層もますます引き付けているのでしょう」

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