野球ファンが待ちに待った「夏の甲子園」が、いよいよ7日に開幕を迎える。猛暑の中、49校の頂点を目指す高校球児たちが、今年もまた熱戦を繰り広げることだろう。全国高校野球選手権大会は、今年で第99回。夏の甲子園の華やかさは変わらないが、その水面下でいま、高校野球界に大きな衝撃が走っている。

 高野連(日本高校野球連盟)が毎年発表している野球部員数。これが今年、大幅な減少を見せたのだ。

 2017年の男子硬式野球部部員数は、16万1573人、前年から6062人(3.6%)減った。新入部員である1年生は5万4295人、3111人(5.4%)の減少だ。

この連載でもすでにふれたとおり(「競技人口減」で先が見えない日本野球の現在)、小学校、中学校の軟式野球人口は激減している。

 2016年の競技人口は2007年と比較して小学生(スポーツ少年団、軟式野球チーム)は33%、中学生(中体連、軟式野球部)は39%も減少していたが、そんな中で高野連発表の男子硬式高校野球部員数だけは昨年までは横ばいといってもいい0.6%の減少だった。

■「不自然」な硬式野球部員の比率

 総務省の統計では2015年10月の15〜19歳の男子人口は、2006年10月から5.6%減少している。そんな中で高校野球の競技人口だけが減っていない。結果として、男子高校生に占める硬式野球部員数の比率は年々上昇し「不自然だ」という声が上がっていた。これもすでに紹介したとおり、高校野球の競技人口には、女子部員が8%程度含まれている。

 また、他クラブからの助っ人も含まれている可能性がある。が、その実態はよくわからない。高校野球を管轄する高野連と、ほかの運動部を管轄する高体連はべつの組織であり、双方で数字は把握していないようだ。

 また、高校1年で野球部に入った生徒が、3年まで続ける「継続率」は。2007年81.4%だったが、2016年には90.1%に上昇した。「途中でやめなくなった」ことで、部員数が減らなかったとされる。

 さらに軟式野球ではなくリトルシニア、ボーイズなどの小中学校の硬式野球人口は減っていない。彼らの多くは高校野球に進む。そういう形で昨年までは「高校野球の競技人口は減っていない」ということになっていたが、今年になって数字の上でもいよいよ退潮が明らかになった。

筆者は先日、野球用具メーカーの関係者と話をしたが、真っ先にこのことが話題になった。先方の感想は、「いよいよきたか」というものだった。

 野球用具業界では、硬式野球競技者は上得意の「シリアスプレーヤー」に分類される。客単価も大きく、売り上げも大きい。特に高校野球はボリュームゾーンだが、この競技人口が減少に転じたことをメーカーは深刻に受け止めていた。

 しかし、高野連のこの数字以上に、高校野球の現場は深刻だ。2012年、高野連は複数の高校が1つのチームを作る「連合チーム」の大会参加を全面的に承認した。これも参加校数、競技人口の減少を食い止める施策の一つだと思われる。

 本来ならば部員数が9人を割り込み、助っ人の見込みもない学校の野球部は廃部に追い込まれるはず。だが、「連合チーム」が可能になったことで、9人未満の野球部も存続可能になったのだ。

 今年も多くの地域で、連合チームが地方大会に参加している。たとえば、高知県は7チーム×4ブロックの28チームで地方大会を戦うが、3校の連合チームが1つ、2校の連合チームが1つ含まれているので、参加校数は31校ということになる。

 高野連発表の加盟校数も2017年は前年から25校減り、3989校となったが、この中には連合チームで参加する9人未満の野球部も含まれている。大阪府の高野連の加盟校には部員数ゼロの学校も入っている。9人そろって地方大会に参加する高校は、この数字よりかなり少ないはずだ。

■部員不足の救済策「連合チーム」の厳しい実態

 連合チームの置かれた環境は厳しい。大阪府のとある公立高校を取材した。放課後、グランドにはぱらぱらと生徒が集まってくる。古びたバックネットを背に、硬式野球部員がキャッチボールを始める。わずか3人。本当は5人いるそうだが、2人はアルバイトで抜けている。指導する教師は、「学費と生活費のためにみんなアルバイトをしています。バイトがなくても、私が見ていないと、部活をしないで帰ってしまう子もいるので、忙しくても毎日顔を出しています」と話す。

つづく

8/6(日) 6:00配信 東洋経済
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170806-00183007-toyo-soci&;p=1