加計学園問題に関する単純な疑問「日本では獣医師が不足しているのか?」:データでみる国際比較
https://news.yahoo.co.jp/byline/mutsujishoji/20170726-00073754/

国会の閉会中審査でも議論の中心となった加計学園の問題。この問題はもともと、獣医師不足と規制改革の問題に端を発したものでした。

 「特に地方で獣医師、とりわけ検疫などを行う公務員獣医師が不足しているのに、獣医師会の反対で何十年間も獣医学部の新設が実現しなかった。その規制改革のため、
特区制度を活用し、獣医師が不足している地域の大学に獣医学部を創設する」という議論だったはずが、その手続きのなかで総理の旧知の友人の大学が(少なくとも結果的に)
選ばれたことで、問題がこじれました。

 安倍総理による「権力の私物化」があったのか、文科省官僚による忖度があったのか、といった証明のつけにくい問題は、ここでは置いておきます。むしろ重要なことは、
総理をはじめ、獣医学部新設を進める立場の人々が展開する、「獣医師不足を解消するために、それを阻む『岩盤規制』の打破そのものに意義がある」という主張です。

 確かに、地方、なかでも獣医学部を備えた大学のない四国では、とりわけ検疫などに携わる公務員獣医師の不足が深刻です。しかし、データで国際的に比較すると、
「日本全体では獣医師は不足していない、むしろ多いくらいである」ことが分かります。だとすると、問題は獣医師が特定の地域や職種に偏っていることにあるはずですが、
獣医学部の新設という「供給の増加」で臨むことは、解決策としては疑問が大きいといえます。

動物に対する獣医師の割合

 次に、「一人当たりの獣医師が診る動物の数」を確認します。診察・治療の対象となる動物の数と照らすことで、獣医師が多いか少ないかを比較します。

 まず、ウシやウマなどの家畜から。表1は、獣医師一人当たりが診察・治療する、平均的な家畜の頭数を表したものです。ここでは、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどの
代表的な家畜に限定し、その合計頭数を多い順に国ごとに並べ、それぞれ獣医師の人数で割っています。

 これによると、日本では家畜の頭数に照らして獣医師の数が非常に多いことが分かります。例えば、家畜の頭数で日本より圧倒的に多いオーストラリアやアルゼンチンの
ように、獣医師の絶対数で日本より少ない国も珍しくありません。また、家畜の頭数で日本の約2倍にあたるカナダと比べて、日本では一人の獣医師が担当する家畜はその5分の1以下です。

 同様のことは、ペットに関してもいえます。表2は、イヌとネコの合計頭数を多い順に国ごとに並べ、それぞれ獣医師の人数で割ったものです。ここから、家畜ほど鮮明でないにせよ、
ペットに関しても、日本では一人の獣医師が平均的に診る動物は、必ずしも多くないことが分かります。

 以上を要するに、日本全体でみたとき、獣医師の数はほぼ十分、というより、各国との対比でみればやや多いことがわかります。