出てこい、第2の翔平――。日本ハム・大谷翔平投手(23)の父・徹さん(55)が監督を務める中学生の硬式野球チーム「金ケ崎リトルシニア」が、創部3年目の昨秋に全国大会出場を決めるなど東北で新風を巻き起こしている。充実したスタッフ、施設に加え、規格外の存在といえる大谷を育てた父・徹さんの指導理念に迫った。 (柳原 直之)

 岩手県金ケ崎町。ひとたびグラウンドに足を踏み入れれば、子供たちは立ち上がり一斉に甲高い声を響かせる。「おはようございます!」。金ケ崎リトルシニアの監督を務める大谷の父・徹さんは「礼儀やあいさつは徹底している。勝利は二の次」と笑った。
 中学1〜3年の計43人が所属。創部3年目の昨秋に全国選抜大会出場を決め、今月には東日本大会に出場する。その快挙の一因は抜群の練習環境にある。両翼92メートル、中堅122メートルのグラウンドは1回の使用料がわずか100円。マウンドやベンチ、バックネットは全て手作りで「事実上」の専用グラウンドだ。雨天時は地元チーム「トヨタ自動車東日本」の室内練習場を借りることができ、豪雪の冬場でもブルペン投球、打撃練習が可能だ。

 社会人野球の三菱重工横浜で外野手、二塁手としてプレーし、二刀流の大谷を育てた徹さんの指導方法はユニークで説得力がある。まずは投球。投手には走者の有無にかかわらず必ずセットポジションで投球させる。「僕のこだわり。体重移動が一定にならないと制球がつかない」。ワインドアップは腰をひねるため反動がつく分、体にブレが生じやすい。大谷もプロ1年目までは振りかぶっていたが、2年目以降はセットポジションでの投球に変更。徹さんは「翔平からヒントをもらったのは事実」と明かした。もう一つのこだわりは「指先でスピンの利いたボールを投げさせること」。同様の指導を受けた大谷は少年時代から指先を意識するあまり、中指、人さし指のマメをよくつぶした。入浴中は指をふやけさせないため、湯船からずっと指先を出すほどだったという。

 打撃に関しては「特にティー打撃が大事」と言う。トスを10球上げれば、1、2球は高くボールを上げ、わざとタイミングをずらす。「直球を待ちながら変化球を打つ練習」だ。腰を回さず、腕だけで振るティー打撃も取り入れる。「腰を使うと体が先に開いて(引っ張って)ファウルになる。逆方向にも強い打球が飛んでいかない。“当たるところから最後まで目を離すな”と伝えている」。かつて大谷も父と二人三脚で取り組んだティー打撃。逆方向へ強烈な打球を飛ばす練習がここに受け継がれている。

 ただ、限界を超えるような猛練習は決してしない。土曜、日曜の練習は午前9時〜午後5時。水曜のナイター練習は午後7〜9時と中学硬式野球チームとしては平均的だ。年に1度、専門の医師によるメディカルチェックも実施し、今年の中学1年生には肘の手術を決断した選手もいる。「活躍する場は高校であってほしい。まだまだ精神的にも子供だから、育成をにらんだチームにしたい」。どんな大きな夢にも下地が必要。球界を席巻する二刀流の父はそれを知る。

 ▽リトルシニアの全国大会 大会日程は高校野球と似ており、秋季大会の上位チームが連盟推薦を受け、春の全国選抜大会に出場する。夏は各連盟予選を勝ち抜いたチームが神宮球場などで開催される日本選手権に出場。また、8月には、リトルシニアのほかボーイズリーグ、ポニーリーグなど5団体が日本一を争うジャイアンツカップが開催される。

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