配置のアンバランス

 それにもかかわらず、先述のように、特に地方では公務員獣医師の不足が問題となっています。これに関して、例えば山本幸三地方創生大臣は「ペット診療の獣医師が儲かるために多すぎる」
という認識を示し、「獣医学部を新設し、獣医師を増やすことでペット診療の『価格破壊』をもたらせば、公務員獣医師を確保できる」と主張しています。

 それでは、日本全体でみたとき、「公務員獣医師が少ない」のでしょうか。表3は、勤務形態ごとの獣医師の分布を、各国ごとに表したものです。これによると、日本では公的機関で勤務する獣医師の割合が
約24パーセント。これはウクライナやインドなどの例外を除けば、各国と比較して必ずしも低いとはいえない水準です。

同様に、ペットクリニックの獣医師の割合は44パーセントで、これも必ずしも高い水準ともいえません。ヨーロッパやラテンアメリカでは、これが50パーセントを超える国も珍しくありません。つまり、
「公務員獣医師と民間クリニックの獣医師」の比率でいえば、日本はごく普通のレベルといえます。

 国際的な水準に照らして、公務員獣医師が必ずしも少ないといえないのに、「地方で公務員獣医師が不足している」のであれば、そこに地域間の偏在があることは確かです。

 ただし、「だから獣医学部を新設して獣医師を増やすべき」という考え方は、ややシンプルすぎると思われます。獣医師の数を増やしても、その人たちが地方で公務員になることを促す方策がなければ、
単に獣医師の偏在を後押しするだけだからです。そして、既に述べたように、日本では獣医師の数が基本的に足りています。だとすると、偏在を是正することが最優先事項であるなら、
ひたすら獣医学部を新設する必要もないはずです。