■第65代横綱 貴乃花 光司

私は15才で入門して以来、ひたすら相撲道を邁進して参りました。相撲界は一般の方から見ると特殊な世界のようで、未だに国技である“相撲”は完全に理解されているとは言えません。

たとえば“横綱”についてですが、横綱とは「力士の中で最も強い者」「相撲という格闘技のチャンピオン」である、と解釈されている方がおられることが残念でなりません。

同様に、相撲は“日本古来の格闘技”ではありません。相撲とは『神道』に基づき、男性が神前にその力を捧げる神事がその根源です。横綱に強さだけでなく、品格や厳格さが求められるのは、相撲が神事である証しといえるでしょう。

横綱とは力士番付における最高位ではありますが、ただ勝ち星が多ければよい、他の力士に比べて力や技に勝り、誰よりも強ければそれでよいという存在では決してありません。

相撲の道を志すものは、「強くなりたい」という思いと同時に、「日本の伝統文化を守る」という強い意志が必要だと私は常々考えて参りました。
それと同時に、相撲を通じて古来から脈々と受け継がれてきた日本文化の美学を後世に伝えていくことが、相撲に関わるすべての人間に課せられた義務であると考えております。

――ところが、そんな相撲道が最近は揺らいでいる。そのことに対して、親方はいつも深く心を痛めていますね。
「残念ながら、最近の朝青龍問題など、まさしく相撲界の揺らぎの象徴です」

 元横綱朝青龍は、2月4日、貴乃花親方も新理事として出席した日本相撲協会理事会で事情聴取を受けたあと、現役引退を表明した。
 引退の直接の理由は一般人への暴行事件。初場所中の1月16日未明、都内で泥酔して暴れ、一般人に暴力を振るった。しかも、武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)からの厳重注意に対し、当初は「相手は一般人ではなく個人マネージャー」と嘘を言っていた。

――これもストレートに聞きます。朝青龍問題の「引退」という決着について、親方はどう思っていますか。
「結論を先に申し上げると、解雇ではなく引退でよかったと思っています。朝青龍の人生は、これからも長く続いていきます。彼の今後の人生を相撲協会や理事会が奪うような結論を下さなくてよかった。
 ただし、引退を勧めたことが温情であることもまた事実。引退にいたるプロセスを考えてみてください。不祥事です。暴力沙汰です。しかも、今回の出来事にいたるまでにも、朝青龍はさまざまな問題を起こしています」

――本場所休場中にもかかわらずサッカーに興じていたり、他の関取とのトラブルも数多くありましたね。そんな朝青龍も、涙を流しながら引退会見を行いました。