「監督が築き上げたものを、俺たちが壊している」

 本当に申し訳ない。監督が築き上げてきたものを、育ててもらった俺たちが壊しているような気持ちになっている。レッズで築き上げてきたもの、レッズの一員として誇りをもって戦ってきたけれど、今日は本当にまともにサポーターの顔が見られなかった」

 ミスでの失点というのは、よくあるとは言わないまでもサッカーでは想定内の出来事であるはずだ。そして “安易なミスを繰り返してはならない”という危機感が生まれてリスクマネージメントが働くのが、強いチームの通常の姿だろう。

 しかし、セレッソを前にしたレッズはそれができなかった。失意をそのまま引きずり、相手の勢いに屈した。ボールを保持できた後半も、失点の恐怖がぬぐえなかったのだろうか。大胆な攻撃は見られず、ゴール前を固めた相手を崩せなかった。

ミスを減らすのにもアプローチは色々あるが。

 かつてジュビロ磐田に所属していたドゥンガが、こんなことを言っていた。「ミスはその場で修正しなければ、改善しない」と。だから彼は、試合中であろうとお構いなくチームメイトを叱り続けた。そんなドゥンガの姿が、磐田の黄金期を作った。

 鹿島の小笠原満男は「ミスをした選手を叱責すれば、余計なプレッシャーを与えてしまうから」と、試合中ではなく試合後に声をかけると発言していた。

 ミスを許さない環境作りにも、様々なアプローチが存在するということで、絶対の正解はない。

 では、浦和はどんな方法を模索するべきなのだろうか。

「喧嘩、というか言い合いをしてもいいのかもしれない」

 浦和のある選手は、「うちの選手は悪いことが続くと、下を向き、悩みこんでしまう傾向が強い」と語っていた。そんなチームの司令塔となる覚悟とともに背番号10を担う決断をした柏木は、ある1つの決意を語り始めた。

 「試合の内容どうこうじゃなく、結局は失点のところ。“え? ”というような、高校生がやるような失点をしてしまっている。こんなチームをビッグクラブと呼んでいいのかっていうところまで来てしまったと思う。だから、ただもう申し訳ない気持ち。悔しいとか、勝てる気がしないとかじゃなくて、情けなさすぎる。

 なんとか、自分でチームを変えられたらと思っている。なにが一番有効なのかなって。チームメイトと喧嘩、というか言い合いをしてもいいのかもしれない。ミスをした選手は反省しているだろうけれど、だからこそ周りにも『こうしてほしい』、『じゃあ、どうする? 』って、選手同士お互いが言い合わないとダメなんじゃないかって。

 お互いが励ましあっているだけでは、成長できない気がしているから。励ましあうのはミシャ(ペトロヴィッチ監督)のスタイルでもあるけれど、レッズが強かった時の話を聞くと、ピッチ上ではケンカ腰で言い合っていたというし。それでもプライベートは仲がいい、そんなチームにしていってもいいのかなって。甘さを取り除いていかないとダメなのかもしれないって。

 試合に出ている選手は、出ていない選手の気持ちも乗っけて戦わなくちゃいけない。言い合うことで良い方向へ進むかはわからないけれど、なにかやってみてもいいかなと考えている」

 先日の鈴木啓太氏の引退試合には、多くの浦和レッズOBが集まった。日本一のみならず、アジア王者に輝いたかつての選手たちは、試合中の口論は日常茶飯事だった。強い個性がぶつかり合うことで、強固なチーム力が培われたとなったのだ。

 もちろん、年月とともに浦和レッズが放つムードにも変化が生じるのは当然だ。新しい指揮官のもとで培われたチームの空気を変えようとしている柏木。それが、どういう効果をもたらすのかはわからない。しかし、躊躇している時間はない。

(「JリーグPRESS」寺野典子 = 文)