ジェンダー系の批判が上がると、他の面での批評がなされづらくなる。
だからあえて言いたい。
あの観光PRは、そもそもの完成度が低すぎないだろうか。

■ びっくりするほど垢抜けない観光PR

サントリーの「コックぅ〜ん」CMが炎上した後すぐに話題になったのが宮城県の観光PRだ。
壇蜜を起用し、男性のみをターゲットにしたように見える動画に批判が上がった。

しかし、コックぅ〜んに比べると宮城県PRは、そこまでの大炎上になっていないように感じている。
ツイッターでの言及数も、コックぅ〜んの方が断然多い。

なぜか。筆者はあの宮城県の観光PRを見たとき、あっけにとられた。あまりの古臭さに。
間延びした構成、クオリティの低い映像、壇蜜に興奮してイマドキ鼻血を出すゆるキャラ、「竜宮城」と「涼・宮城」をかけた唐突なダジャレ。

もしこれが大企業や東京都のPRならば、そのような批判・嘲笑が出たはずだ。
なぜ宮城県のPRにそういった声が出にくいかといえば、「地方CMが垢抜けないのは、まあしょうがないよね……(言ってやるな)」って哀れみ目線があるからではないのか。

ああいうレベルのものをみんなで叩いても仕方ない。
ネットは案外、地方に優しい。だが筆者はそんな空気は読まない。

村井嘉浩・宮城県知事は7月10日の会見で「もちろん、賛否両論あるだろうなとは思った」「さらに厳しいことを言っていただくと、もっと伸びると思いますんで、どんどん厳しいことを言ってアクセスを伸ばしていただきたい」「(この動画で)宮城は涼しいんだなと思ってもらえる。賛否両論が成功につながると思っている」などと発言している。

知事が厳しいことを言っていただいた方がいいと仰っているので言おう。
あの動画で伝わってきたのは宮城県が涼しいことではない。

冒頭から「(壇蜜扮するお蜜の使命は)殿方に涼しいおもてなしをすること」などというナレーションが入る動画を見て筆者が受け取ったメッセージは、「観光に来てほしいのは“殿方”です」「宮城県では今も昭和スタイルの接待が楽しめます」である。
伝えたいのが“涼”なのであれば、それ以外のノイズが多すぎる観光PRだ。
ずんだ餅などの名産品も残念なことに、あまり記憶に残らない。

■ 炎上はブランディングにならない

会見では男性記者が知事に対し、比較的穏やかな口調で「老若男女を対象とするべき観光の面で、賛否が分かれるような内容が適切なのかどうか」と畳みかけたが、知事は「私は非常に面白くていいんじゃないかなと」「あれを見て宮城に行かないということになるとダメだと思いますけどね。そういう感じにはならないのではないか」などと答えている。

センスのない観光PRをセンスがないと指摘する人がいない宮城県。
もしくは、「どうせ宮城なんて来るのはこの程度のPRで喜ぶ層だ」という自己卑下と諦めでいっぱいなのか。

いったんジェンダー系の炎上が起こると他の視点での批評が行われない傾向がある。
ネット上では、「女性視点からの反応」を嫌う人たちが、「面白いじゃないか」と言いさえする。

あえてかばうほどのクオリティだと本気で思っているのか。
せめて広告に携わる人たちは、「あれどこの制作会社だよ(笑)」くらい言っておいた方がいいのではないか。

村井知事のコメントは、あの動画が観光PRでありながら、特定の性別・年齢だけをターゲットにしていると見せてしまっていることに気づいていない(もしくは黙認している)時点で致命的だ。
ジェンダー的な視点はもちろんだが、そもそも観光PRが何かを理解していないのではないか。

同じ地方PRでも、宮崎県小林市の移住促進PRムービー“ンダモシタン小林” “サバイバル下校”は面白い。
有名人を起用しなくても、セクシー系に走らなくても、企画力で勝負できることを証明している。

あえて炎上を狙って賛否両論を呼ぶのと、安易な方向に走らず見る人の知を信頼して映像を作り上げる姿勢。
どちらの好感度が高いだろうか。
炎上は人目を引いてもブランディングにはつながらない。

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10131