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■涙で見送る母

 教師だから、といっていいのか、ともかくしつけに厳しい父親だった。だった、というのは、今はだれよりも熱烈な「田中道子ファン」だからだが、小学生の頃は家の中でも敬語を使った。そのせいかどうか、おとなしい子供だった。

 小学5年生のとき活発な友人の影響を受けて変わりはじめて、中学生のころの夢はアクション女優。借りてきた映画を、そろって鑑賞する家族だった。あこがれはハリウッドのアンジェリーナ・ジョリー(42)。

 母親は「女優なんてサラダしか食べられないのよ、辞めなさい」と早々に煙幕を張ったが、言われるまでもなく地方都市に暮らす女子大生に女優は「あまりにも遠い夢だった」。

 しかし、就活途中の2級建築士の女子大生は、「レッスンを受けてもいいよ」という言葉の魔法にかかって行動に出る。

 父親が出勤すると、荷物をまとめて東京行きの高速バスに飛び乗ったのだ。バス停まで15分の道のりは、いつものように母親が車で送ってくれた。いつもと違ったのは母親が泣きながら、バスを見送ったことだった。バスの中で娘は、窓外の景色をにらみつけながら「私、これが両親に対する初めての反抗。絶対にうまくいく、と戦場に向かうような気持ちでした」と振り返る。

 ただ、これだけ強い行動に出た本当の理由は、今になっても分からないという。

 「私、目の前に選択肢があるとき、勘とひらめきだけで乗り越えてきたんです。それで間違えたことはなかった。だから、あのときもひらめいちゃっただけなんですよね」

■ベテランからの即興セリフに戸惑い その真意は…

 女優デビューは27歳。大学卒業の年齢でレッスンを始めたのだから、当然遅いスタートとなる。が、恵まれた初役だった。

 テレ朝系ドラマ「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」(2016年)で、セクシーでちょっと悪女の秘書。米倉涼子が主演で西田敏行、泉ピン子らというそうそうたる顔ぶれ。

 撮影が始まる3日前からは眠れなかった。西田は新人相手でも容赦なく即興のセリフを繰り出してきた。「パンツ下ろして」と言われたときは、どうしたらよいか分からなかった。「今でもわかりません」と笑う。

 ただ、泉がささやいてくれた。「あんたね、あれは(西田の)愛情よ。即興でせりふが増えるでしょ。テレビに映る時間も増える。あんたの役を広げてくれているのよ」

 「確かにそうだなと。たくさんのバトンというかパスをくださる、優しい方だと気づきました」

■冬樹和泉ちゃんとは違うかな

 「ドクターX」では、生瀬勝久から多くの助言をもらった。「西田さんのアドリブには、もうかまうな。黙っていたほうがおもしろい場合もあるんだぞ」「0・1秒の間にも気を遣え」

 その生瀬とは放送中の「貴族探偵」でも共演中だ。鑑識員の役。神奈川県警の制服をベースに、少しだけ体のラインを強調するアレンジが施された水色の制服が印象的だ。生瀬は刑事役だから、ほぼ毎回共演し、学び続けている。

 「生瀬さんは100人を相手に100通りの演技ができるとおっしゃって、こちらも針の穴を通すように神経を使いながら、楽しく対応させていただいています」

 鑑識員の冬樹和泉は、気が強い設定だ。

 「私は浮き沈みが激しくて、ずぼらで、めんどくさがりで、楽天家で、うーん。冬樹和泉ちゃんとは結構違う。でも、自信家の役だから常に相手を見据えてまばたきをしないようにするなど、がんばっているところです」

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