●業績回復が難しい理由

テレビ局の広告収入には、タイム広告収入とスポット広告収入の2種類がある。タイム広告は、個別の番組ごとに発生する広告で、
広告主は番組内に設定された枠にCM(コマーシャルメッセ−ジ)を流すことができる。また番組中に「この番組はA社の提供でお送りします」という形で提供表示される。

一方、スポット広告は番組とは関係なく、局が定めた時間に放送されるCMである。番組と番組の間や、番組中の特定時間帯にスポットCM枠が設定されている。

もともとテレビはスポンサーからの資金提供(タイム広告収入)で番組を制作するというビジネスモデルだったが、年々、スポット広告の比重が高まり、
現在ではタイム広告とスポット広告は半々という状況になっている。フジテレビも、もともとタイム広告の比率が高かったが大幅に低下した。

これまでフジテレビは人気番組を制作することで業績を回復させようと試みてきた。しかし、2年前くらいからそれも難しくなってきた。
なぜなら、収益低下に歯止めがかからず、コンテンツビジネスの核心部分である番組制作費の削減に手を染めてしまったからである。

●制作費の削減が負のスパイラルをもたらす

地上波の各テレビ局は、年間900億〜1000億円程度の資金を番組制作に費やしている。出演するタレントのギャラや美術制作費などは全てこの費用に含まれる。
TBSやテレビ朝日が番組制作費を増やす一方、フジテレビは16年3月期には930億円、17年3月期には882億円まで減少した。同社の制作費は民放キー局の中で4位となっている。

テレビ局は、ドラマやバラエティ番組など、制作したコンテンツの中身(視聴率)でほぼ収益が決まってしまう。当然、コンテンツビジネスの核心部分ともいえる制作費を大幅に削減することは大きなリスクを伴う。
視聴率を早期に回復させ、制作費を増額していかなければ、同社のコンテンツ制作能力は今後、大きく低下する可能性があるだろう。

もっとも、この問題はフジテレビに限った話ではない。視聴率低下が著しいことからその影響がフジテレビだけに顕在化しているように見えるが、テレビ全体の視聴率(総世帯視聴率)は、
多少のバラツキはあるものの年々低下が進んでいる。ゴールデンタイムの視聴率は10年には63%もあったが、2016年は59%まで下がっているのだ。

若者のテレビ離れなどの影響を受け、今後も視聴率低下が進むと言われているので、いずれ各社もフジテレビと同じような状況に陥る可能性がある。

在京キー局は、地方のテレビ局を系列化しグループを形成しているが、キー局は一括して受け取った広告料金をネットワーク分配金という名称で地方局に分配している。
この金額は各局当たり300億円程度と推定されるが、この資金がなければ地方局の経営は成り立たないので、削減することは難しい。テレビ局の設備などにかかる減価償却も同様である。

そうなってくると、数少ない変動費である制作費を削減することになるわけだが、これは確実にコンテンツの質の低下をもたらす。テレビ局の収益構造は硬直化しており、
視聴率の低下に柔軟に対応することができなくなっているのだ。すぐには大きな問題は起きないだろうが、フジテレビの業績低迷は、実はテレビ局全体の近未来なのかもしれない。

(加谷珪一)

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