今季の欧州主要リーグのシーズンも残りわずかとなり、“W杯イヤー”となる来シーズンに向けた移籍市場の話題も増え始めている。そこで気になるのはJリーグでプレーする選手から今夏に欧州へ渡る選手が現れるのかということ。ご存知の通り、春秋制のJリーグは夏場にちょうどシーズンの折り返しを迎える。

 このタイミングでの主力選手の移籍は移籍金が発生しようとしまいと、クラブにとって戦力の低下につながるリスクがあることは間違いない。それを承知で、選手のポテンシャルや現時点の情報、本人のコメントなどから欧州移籍の可能性を展望する。欧州クラブやスカウトが重視するのは選手の能力に加えて年齢の様だ。

 なぜならば、日本の選手は欧州に初めて渡った段階でフィジカル面の課題を抱えているケースが多く、ある程度の年齢で初挑戦となると、そこが課題ではなく弱点になってしまいやすい。これはJリーグのレベルが低いということではなく、チームとしての組織ありきで戦う傾向が強いことと、レフェリングがデリケートであること、さらに言えば芝が欧州より軽く、踏み込みが浅くてもプレーできる恵まれた環境にあるというところに原因がある。

 欧州でプレーする代表選手によく話を聞く情報を総合すると、挑戦した当初から全く違和感なくプレーできることはほとんどないが、そこから新しい環境に適応していく力と意識が高いほど海外で成功しやすい。言葉の問題も含めて、若い選手であれば適応のための時間も見越して獲得できるというメリットがあり、そこで活躍すれば高額な移籍金でより大きなクラブに売りやすい。

 ビッグクラブであれば若い選手を獲得した上で下部リーグやつながりのある他国のクラブにレンタルし、様子を見て戻すというプランも出てくる。昨夏にサンフレッチェ広島からイングランドの強豪アーセナルに移籍した浅野拓磨の場合は、英国での労働ビザが下りずにドイツ2部のシュトゥットガルトにレンタルされたが、いきなり主要リーグのビッグクラブから声がかかる場合はそういうケースを想定する必要があるということだ。

現在、欧州主要リーグから最も注目を集めているとみられる一人が関根貴大(浦和レッズ)だ。4月に22歳の誕生日を迎えたドリブラーは13年10月の天皇杯でトップチームデビューし、14年より昇格。以来、主力に定着して4シーズン目を迎えている。強みは年齢の割にJリーグで多くの経験を積んでいることと、小柄ではあるがフィジカル面も高いレベルにあることだ。特にサイドの長い距離を何度もアップダウンする持久力は4年間で飛躍的に向上している。

 またポゼッションを主体とした浦和レッズのスタイルにあって、個で仕掛ける意識が高く、分かりやすい特徴をアピールできる点も環境適応の助けとなるはず。ヘルタ・ベルリン(ドイツ)で活躍する原口元気の後輩でもあり、ブンデスリーガ移籍となればピッチ内外の情報収集も事欠かないと思われる。昨夏のリオ五輪に選ばれず、A代表の招集経験も無いが、だからこそ今が獲得のチャンスであることも確かだ。

 その関根にも匹敵する注目株が20歳の井手口陽介(ガンバ大阪)。ユースチーム在籍時にプロ契約をかわし、昨年Jリーグのベストヤングプレーヤーにも選ばれた若きボランチは早い段階から欧州志向を表明し、1次リーグ敗退に終わったリオ五輪後には「早く海外に行くに越したことはない」とメディアに語っている。A代表で欧州組から強い刺激を受けた部分もある様だ。ガンバで主力としてタイトルを獲得したいという意識も強い一方で、しばしば噂にあがるオランダやドイツのクラブから具体的なオファーがあれば、一気に実現の運びになる可能性はある。

 同じくガンバ大阪の下部組織出身で、5月20日に開幕するU‐20W杯のメンバーである堂安律は15年に大手英紙『ガーディアン』が選出した“98年生まれの期待の50人”に名を連ね、これまでもオランダのPSVなど名門クラブが獲得に乗り出したという報道もあった。U‐19アジア選手権でMVPにも輝いた堂安に加え、小川航基(ジュビロ磐田)や岩崎悠人(京都サンガ)、三好康児(川崎フロンターレ)、中山雄太(柏レイソル)、冨安健洋(アビスパ福岡)といった主力選手が、日本にとって5大会ぶりの出場となるU‐20W杯の活躍次第で欧州の熱視線を浴びる資質はある。