ときは8月、瀬戸内海沿岸の町。

雨にぬれる小さな町は活気がなく、すっかり寂れていた。
人々は借金を抱えて苦しい生活をしているのだ。

その町へ、一人の旅人がやってきた。
そして町に一つしかない民宿に入ると、受付に10000円紙幣を置き、部屋を選ぶために2階へ上がって行った。
民宿の主人は10000円紙幣をひっつかんで、借金返済のために魚屋へ走った。
魚屋は同じ紙幣を持って養殖業者へ走り、10000円の借金を返した。
養殖業者はその紙幣を握ると、つけにしてある餌代と燃料代を払うために卸販売業者に走った。

卸販売業者は10000円紙幣を手にすると、この厳しいご時世にもかかわらず、つけでお相手をしてくれる
町の遊女に返そうと彼女のもとに走った。遊女は10000円紙幣を懐にして民宿に走り、
たびたびカモを連れこんだ民宿に借りていた部屋代を返済した。

民宿の主人は、その10000円紙幣を受け取ると、紙幣を受付の元の位置に置いた。
ちょうどそのとき、部屋をチェックして2階から降りてきた旅人が、どの部屋も気に入らないと云って
10000円紙幣をポケットにしまいこみ、町を出て行った。

誰も稼いでないけど、町中の誰もが借金を返し終わり、町は活気を取り戻した。