人民元レートの操作をしてきた中国

ここまで為替操作について解説したが、実際に中国は、どのように為替
操作を行ってきたのか。

中国は2005年に、ドルと人民元の為替レートが連動する「ドル連動制」
から、為替レートを市場メカニズムに任せつつも、政府が為替介入も
行なう「管理変動相場制」に移行した。しかし移行後も、中国政府は為
替介入を続け、人民元の為替レートを大幅に安く保ってきた。

恣意的な人民元の切り上げや切り下げは何度も行われ、最近では2015年
8月に行った人民元の大幅切り下げが、アメリカ政府を激怒させた。

「中国は為替操作国」と指摘しているのは、トランプ氏だけではない。
ノーベル経済学賞の受賞者で、安倍晋三首相に消費増税の延期を求めた
国際経済学者のポール・クルーグマン氏も、その一人だ。クルーグマン
氏は、中国製品に25%の関税をかけるべきだと指摘したこともある。


資本が流出して人民元安が進む

これまで人民元安を保ってきた中国だが、2015年8月以降、為替操作を
していないにもかかわらず、人民元安が進んでいる。中国経済の低迷や
企業債務の増大、バブル崩壊に対して懸念が高まっており、中国市場か
ら資本が流出しているためだ。

さらに、2016年11月にトランプ氏が次期大統領に当選すると、中国から
の資金流出は加速。その資金が流れ込んでいるのは、アメリカだ。中国
政府は外貨準備を取り崩し、ドルを売って人民元を買っているが、人民
元安に歯止めがかからない。


中国の黒字を減らすアメリカの戦略

トランプ氏は12月、新たに通商政策を担う「国家通商会議」を創設する
と発表し、そのトップに対中強硬派のピーター・ナヴァロ米カリフォル
ニア大教授を指名した。ナヴァロ氏は、安い中国製品がアメリカに流入
し、国内の雇用を脅かしていると主張してきた国際経済学者だ。

国家通商会議が通商政策の司令塔となり、通商代表部(USTR)や商務省
が、実際の通商交渉を行う見通しだ。特にUSTRは、中国などとの不均
衡な貿易の是正に専念すると見られる。

アメリカと中国の経済戦争はすでに始まっている。アメリカは、関税
などを使って中国に圧力をかけ、中国の貿易黒字を減らし、国力を弱
める戦略を立てている。日本も米中の動きを注視していく必要がある。