人民元の対ドル下落、中国政府の狙いは何か
転換点迎えた世界2位の経済大国

今年4月17日、中国人民銀行(中央銀行)は預金準備率の1%引き下げ
を発表した(その後、7月5日には0.5%の再引き下げが実施されている)。
中国では、この預金準備率の上げ下げが、短期的な金融政策の主要な
手段としてよく用いられている。これら一連の金融緩和策は、もともと
中国の景気が減速しつつあることにくわえ、米中貿易摩擦の激化による
輸出へのダメージを和らげるためのものと考えられる。

一方で、これをきっかけに人民元の対ドル相場が急速に下落し、その下
落率は4月半ばの水準と比較して6%近くに達している。

 ここのところ株式市場が動揺しても円高にならず、ドル円レートが堅
調に推移する傾向が顕著であるが、近年、円と人民元の対ドルレートは
連動して動くことが多くなっており、人民元安が円安を促す一因となっ
ている可能性もある。

 さて、いうまでもなく人民元のレートは、中国当局によって厳しく
監視されている。そのため、この人民元安には政策的な意図があると
見られ、米国との貿易戦争における新たな“武器”として位置付けられ
ているという観測も生まれている。

 もっとも、人民元レートの下落は中国にとっても諸刃の剣だ。そう
でなくても、中国株は今年に入ってピーク比で20%を超える下落をみ
せている。近時では、株安・通貨安が連動し、“中国売り”ともいえる
様相を呈している。そうした状況で、一段の人民元安はさらなる株安
を招く可能性が高い。

 さらには、中国の債券市場でも発行体企業(おもに地方政府系企業
など)の信用力の悪化を懸念した売りが強まっている。中国ではドル
建ての債券も多く発行されており、人民元安はそうした債務の返済負
担が増えることに直結するため、信用不安が高まる懸念がある。