>>174
その携帯にハッキリ写っているのは片隅で、メニューに両手
をかざし、笑っていない。どんな表情も無い。謂わば、
坐って火鉢に両手をかざしながら、自然に死んでいるような、ま
ことにいまわしい、不吉なにおいのする人物であった。奇怪な
のは、それだけでない。その携帯には、わりに顔が大きく写っ
ていたので、私は、つくづくその顔の構造を調べる事が出来た
のであるが、額は平凡、額の皺も平凡、眉も平凡、眼も平凡、鼻
も口も顎 も、ああ、この顔には表情が無いばかりか、印象さえ
無い。