【仲居さんの世界】「どうぞ、ごゆっくり」「すぐ、おもちします」丁寧な言葉に隠された怖い本音…
「お風呂はお夕食の前になさいますか?」
これを意訳すると「お風呂は夕食前に入ってくださいね」となるのだそうだ。人手が慢性的に不足している業界なので、従業員は1人でいくつもの業務をこなさないといけない。
「さっさと入浴を済ませてもらって、早めにお風呂掃除を終わらせたいのです」
それでも、夕食のあとに入りたい客がいたら?
「あらかじめ入浴時間が決まっていることが多いので、たぶん『本日は終わりました』といって断られるでしょうね」
お風呂に入ってサッパリしたら、次は夕食だ。
でも仲居さんは忙しい。やっと捕まえてビールの追加を頼んだら「すぐ、おもちします」と気持ちのいい返事がかえってきた。
でも安心してはいけない。これは「用事を順番に片付けてから、忘れていなかったらもってきますね」という意味らしい。
そういわれてみれば「すぐに――」といわれて、本当にすぐもってきてもらった経験は少ないような気がする。
夕食が済んだら、あとは部屋で飲みなおすか寝るだけ。そこへ仲居さんがやってくる。
「お布団を敷くのは、もう少しあとにいたしましょうか」
これは「いま布団を敷かせてくれ」ということ。そうしないと、仲居さんたちの仕事が終わらない。
「どうぞ、ごゆっくり」といわれて本当にゆっくりしていたら嫌われる
布団を敷き終えた仲居さんが部屋を出る際、たぶんこう訊かれる。
「明日のお発ちは早いですか?」
ほとんどの旅館は食事の時間が決まっているから、自分たちの都合で早めに出発したくても、朝食の支度時間に間に合わない場合がある。
つまり「あんまり早いのは困ります」ということ。だから「ごゆっくりお休みください」とあいさつして出ていく。もちろん本音から「ゆっくり寛いでほしい」という気持ちの表れもある。
だが場合によっては、「早く起きて、朝ごはんを催促しないでね」という意味を含んでいることもあるというから、理解がなかなか難しい。ただし前もって申し込んでおけば、柔軟に対応してくれる場合もある。
ところが、これと正反対の意味で「ごゆっくり」といわれることがあるという。
「たとえば、お風呂に入るのが、終了時間ぎりぎりの遅い時間になってしまったときに『ごゆっくりどうぞ』といわれたら、別の意味になるかも。『仕事が終われないから早くあがってね』ということです」
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