● 「辞任する」と啖呵切ったものの 意見を翻した田中総長

 話を本題に戻そう。何ゆえ、鷹司統理は田中総長に異例中の異例である苦言を吐露したのか――。時計の針は、先月9月11日に開かれた前々回の役員会にさかのぼる。

 その終盤、冒頭で触れた職員宿舎売却における神社本庁上層部と業者の癒着を指摘し(参考記事)、その実態解明を訴えたことで懲戒処分を受けた神社本庁の幹部職員
2人が起こした処分の無効確認を求める民事裁判について、複数の理事から「これ以上争わず、和解の道を考えるべし」との提案がなされた。

 その提案に、鷹司統理も、平成の御代替わりを前に収束を図るためにも議論を深めた方が良いという見解を示したという。

 ところが、これに立腹したのが田中総長だった。

 田中総長は、本誌編集部が今年8月に報じた神社本庁におけるパワハラ飲酒暴行の報道に触れ、「なぜ、そんなことがそういう媒体に出るのか」などとした上で、「統理様
からお話があった以上、悔しいが、私は今日で総長を辞させていただく」と啖呵を切って辞任を表明したのだ。

 この突如の辞任表明は、誰も予期していなかったようだ。だが、総長職の指名権を持つ鷹司統理は「次世代へのバトンタッチが一番大事」とし、その場で辞任を了承する
意向を示した。

 ところがだ。田中総長に近い関係者がこの辞任表明があった9月の役員会直後、週刊ダイヤモンド編集部の取材に「まだ先行きが不透明。覆る可能性もある」とした言葉通り、
田中総長派の理事たちが統理に田中総長を辞めさせないよう異例の直談判。さらに今月10月3日、冒頭の臨時役員会を開催する。「意見交換」という趣旨の下、田中総長の
続投と訴訟継続を求める田中派と、それに異を唱える非田中派の双方から意見が出され、採決などは行わず閉会となった。

 この臨時役員会の閉会直前に出されたのが、冒頭の鷹司統理の苦言。田中総長が自らの辞任表明を朝令暮改で覆そうとしていることへの不信感と憤りの表れだったわけだ。

 ところが、不思議なことに、神社本庁はそれから約1週間後の10月9日、田中総長の辞任表明を報じた全国紙や業界紙などの一部報道を「事実誤認」とし、田中総長の続投と
訴訟の継続の方針が、臨時役員会において「了承された」とする通知を都道府県神社庁に出した。臨時役員会が単なる「意見交換の場」に過ぎず、何も採決されなかったにも
かかわらずだ。辞任表明をなかったことにしようという事務方の“忖度”なのかは分からない。

 しかし、鷹司統理はあくまで前々回9月の役員会における辞任表明を“尊重”する姿勢を崩していない。

 「鷹司統理は、組織のトップが簡単に意見を翻すべきではないと考え、また口頭での辞任表明は法的にも有効との見方を示しており、辞表提出を待っている状況」(前出の神社本庁関係者)という。

 信仰上のトップに、事務方のトップが弓を引くというこの前代未聞の事態は、神社界の全体の未来を左右しかねない。

 (週刊ダイヤモンドの取材に対し、現在、神社本庁側は回答を検討中)