【誰も言わない日本の携帯が中国で負けた本当の理由】

私が中国に渡った2001年は、ちょうど中国が“携帯大戦争”に突入した時代である。
まさに雨後のタケノコのように携帯ショップができ、当時、日本もSONY,京セラ、東芝、NEC……、20社ほどが中国市場に参入していた。

しかし売り場で見る日本の携帯はどれもガラステーブルの端に追いやられ、ホコリをかぶっていた。当時、日本と中国では圧倒的な技術差があったにもかかわらず、である。

当時、その理由を販売員に聞いてみると、
「売れないから。英語だけで中国語が打てないのよ」「使いにくい」「電池の持ちが悪い……」

私は<えー、それ本当に日本のメーカー製?偽物じゃないか>と思ったが、まさに正規品だった。

中国は、世界市場である。
日本だと官と企業が一体となり外資参入の壁を高くするが、中国では昔は技術が低かったせいもあり、少なくとも未発達分野の初期は外資を歓迎する(もちろんいろんな技術移転の仕組みはつくる)。

その中で、他国の各社も最初は実は結構“外したもの”を出していた。しかし、彼らはそのうち市場を読み取り、どんどん軌道修正をしていった。

モトローラもノキアもサムスンもアップルも、中国製のスマホが今のように勃興する前に少なくとも一度は天下を取っている。
アルカテルなどの欧州メーカー(当時)もそれなりにファンを掴んでいた。

しかし日本だけが、「わが日本のすばらしさを知れ」とばかりに、一般の中国人が好まぬ折り畳み式携帯電話をドヤ顔で押し付けてみたり、要らぬ機能ばかりだったりと、かなりトンチンカンだった。
かろうじてソニー・エリクソンの音楽携帯が一部で認知されたが、基本、最初から最後まで外しまくって、ほぼ全社が撤退した。

中国を撤退する日系企業は多いが、どう見ても負けっぷりが異様である。
当時、この状態を日本に伝えたいと思い、日本のメディア各社に声をかけたがOKするところはなかった。本で書いたが、読む人は知れている。

現地の日本の新聞記者に「書いたら?」と言っても、「駐在員がかわいそうですよぉ。通信規格が違うからですよぉ」
その後、“通信規格が違う”サムスンが、中国の携帯市場で大勝利した。

現地では日本の官と日本企業と日本メディアがそれぞれ利益誘導で押したり引いたりコネコネしてたりで “村社会”をつくり、いろんなことがクローズされる。

自分の中国駐在に伴って、現地の日本の海外天下り団体に嫁さんを入れてもらっていた新聞記者も居たぐらいである。

なぜ日本のメーカーだけが、中国の、いや世界の携帯市場をまったく読みとれず、大きな市場を逃がしたのだろうか。
答えは日本のメーカーが消費者のマーケットを読む能力をなくしたからである。

日本の携帯市場は世界でも珍しいキャリア主導である。
日本のメーカーは自分でマーケットを調査し、リスクを取って携帯を開発販売してきたのではない。

キャリアの仕様通りに製品を作り、納品する。“割り当て”があり、その分は全部買い取ってもらえる。

今回、この記事を書くのに17年ぶりに日本の携帯(スマホ)市場を見た。
すると、あの時中国で惨敗を喫したメーカーのスマホが大手を振っていまだ何社も存在しており、仰天した。

この“村社会”の仲間だけでパイを分け合う環境に長くいて、世界で勝てるわけがない。日本の大手メーカーが“政府筋の仕事”で、半ば利権団体的存在になっていったのが、敗因である。

日本が世界で有数のiPhone市場なのも、日本携帯の実力がなかったからかもしれない。
http://diamond.jp/articles/-/170198