20××年。俗にインバ部落と呼ばれている集落へ、私は足を踏み入れた。
ダブルインバースで大損を出し、家も車も手放した者たちが固まって住む貧民街だ。
住民たちが「部室」と読んでいる掘立小屋跡周囲の道端に
ポスターの類らしきものが落ちている。
拾ってみると もう褐色になりかけており、ところどころ千切れている。
紙を翻してみると、表にはこう書いてあった。
「3000きったらインバ。みんな知ってるね?」
実は、この銘柄にはきつい減価がある。
みなそれを知りながら、束の間の栄光を求めて買い漁った時代があった。
集落の古老は目の焦点がぶれている顔で、早口でまくしたてる。
「こんなインチキ相場、いつまでも続くもんじゃないんですよ!」
彼はもう数十年、これが口癖なのだそうだ。(終)