イビチャ・オシムに電話をしたのは、延長の末にマリオ・マンジュキッチのゴールでクロアチアがイングランドを下し、
初の決勝進出を決めた直後だった。だが、電話口の向こうから聞こえてくる彼の声は、意外なほどに落ち着いていた。
――元気ですか?
「ああ、当然だろう」
――厳しい試合でしたが、結果はクロアチアに望ましいものになりました。
「この大会では多くの試合がこんな風に決まった。生きるか死ぬかの厳しい戦いの結果だ。
心臓の弱い人間が見ていたらショック死を起こすような試合だった。
クロアチアはずっと自分たちのスタイルを維持し続け、自分を信じながらプレーし続けた。最後はそれが報われると信じながら」
――イングランドに先制され、前半はペースをまったく掴めませんでした。
「だが選手たちは、それでも前に進もうとした。それが結果に繋がった。
先制点を喫した後は、相手への敬意を強く抱きすぎた。もう一度、力を再編成しなければならなかった。
それはイングランドという相手との戦いであると同時に、自分たち自身との戦いでもあった。最終的にはそれが報われた。
(決勝進出という)正当な報酬を受け取ることができたのだから」
――ラウンド16以降の戦いはすべて延長戦で、PK戦も2度ありすべて厳しいものばかりでした。
「ここまでの彼らの戦いは、どれも喉元にナイフを突きつけられたようなものばかりだった。
フィジカル面もとてもきつく、この試合でも重要な要因となった。しかし彼らは、必要なときに常に必要な力を見いだしてきた。
イングランドにも60分過ぎまで0対1とリードされたが、モドリッチが率先してチームメイトを鼓舞し続け、チームの攻撃をリードした。
同点ゴールはイングランドの先制点からほぼ1時間後で、じっと耐えながら反撃の機会をうかがい続けた結果だった。
延長に入ってからもゴールを目指し続け、その姿勢が決勝ゴールを生んだ。そうしたことの末の勝利だった」
――決勝の相手はフランスです。
「決勝は興味深いものになるだろう。フランスが有利だとは思うが……。
というのはベンチに控える選手の層ではフランスの方が充実しているからだ。交代のカードはフランスの方が豊富だし、
フランスの控え選手たちは先発でもプレーすることができる。
クロアチアはそうではない。しかし決勝は、彼らにとって新たな挑戦でもある。
フランスはいずれも名の知れた選手ばかりだ。フランスのクラブでプレーする選手も、
また他国のビッグクラブでプレーする選手も錚々たる顔ぶれで、世界選抜と言っても過言ではないほどだ。
厳しいチャレンジであるのは間違いないが。
しかし延長やPK戦を経て勝ちあがるのは、いいことである場合もある。観客にしても、
90分で決着がつくよりずっとスリリングでサスペンスに満ちている。勝利の喜びも大きいし、負けても何がしかの満足感は得られる。
とにかくクロアチアが決勝に進んだのは、政治的にもポジティブだ。
どこの国も政治や経済の深刻な問題を抱えているが、サッカーはそれをいっときでも忘れさせるし、
多少なりとも緩和することもできる」
http://number.bunshun.jp/articles/-/831346
http://number.bunshun.jp/articles/-/831346?page=2
初の決勝進出を決めた直後だった。だが、電話口の向こうから聞こえてくる彼の声は、意外なほどに落ち着いていた。
――元気ですか?
「ああ、当然だろう」
――厳しい試合でしたが、結果はクロアチアに望ましいものになりました。
「この大会では多くの試合がこんな風に決まった。生きるか死ぬかの厳しい戦いの結果だ。
心臓の弱い人間が見ていたらショック死を起こすような試合だった。
クロアチアはずっと自分たちのスタイルを維持し続け、自分を信じながらプレーし続けた。最後はそれが報われると信じながら」
――イングランドに先制され、前半はペースをまったく掴めませんでした。
「だが選手たちは、それでも前に進もうとした。それが結果に繋がった。
先制点を喫した後は、相手への敬意を強く抱きすぎた。もう一度、力を再編成しなければならなかった。
それはイングランドという相手との戦いであると同時に、自分たち自身との戦いでもあった。最終的にはそれが報われた。
(決勝進出という)正当な報酬を受け取ることができたのだから」
――ラウンド16以降の戦いはすべて延長戦で、PK戦も2度ありすべて厳しいものばかりでした。
「ここまでの彼らの戦いは、どれも喉元にナイフを突きつけられたようなものばかりだった。
フィジカル面もとてもきつく、この試合でも重要な要因となった。しかし彼らは、必要なときに常に必要な力を見いだしてきた。
イングランドにも60分過ぎまで0対1とリードされたが、モドリッチが率先してチームメイトを鼓舞し続け、チームの攻撃をリードした。
同点ゴールはイングランドの先制点からほぼ1時間後で、じっと耐えながら反撃の機会をうかがい続けた結果だった。
延長に入ってからもゴールを目指し続け、その姿勢が決勝ゴールを生んだ。そうしたことの末の勝利だった」
――決勝の相手はフランスです。
「決勝は興味深いものになるだろう。フランスが有利だとは思うが……。
というのはベンチに控える選手の層ではフランスの方が充実しているからだ。交代のカードはフランスの方が豊富だし、
フランスの控え選手たちは先発でもプレーすることができる。
クロアチアはそうではない。しかし決勝は、彼らにとって新たな挑戦でもある。
フランスはいずれも名の知れた選手ばかりだ。フランスのクラブでプレーする選手も、
また他国のビッグクラブでプレーする選手も錚々たる顔ぶれで、世界選抜と言っても過言ではないほどだ。
厳しいチャレンジであるのは間違いないが。
しかし延長やPK戦を経て勝ちあがるのは、いいことである場合もある。観客にしても、
90分で決着がつくよりずっとスリリングでサスペンスに満ちている。勝利の喜びも大きいし、負けても何がしかの満足感は得られる。
とにかくクロアチアが決勝に進んだのは、政治的にもポジティブだ。
どこの国も政治や経済の深刻な問題を抱えているが、サッカーはそれをいっときでも忘れさせるし、
多少なりとも緩和することもできる」
http://number.bunshun.jp/articles/-/831346
http://number.bunshun.jp/articles/-/831346?page=2