また不安状態に陥ったマウスの脳を調べてみると、脳の活動パターンや神経の接続パターンが全体的に変化しており、不安と恐怖に関連する脳領域が活性化していることがわかりました。

これは「不安」のような複雑な精神活動が、腸内細菌のつくる小分子「4‐EPS」によって引き起こされていることを示します。

(※4‐EPSの製造過程の一部には、宿主の消化活動も含まれている可能性があります)

さらに「4‐EPS」によって不安状態に陥ったマウスの脳を調べたところ、ニューロンの長い配線の周囲に存在する「絶縁体」部分が薄くなっていることが発見されました。

(※絶縁体に必須なミエリンタンパク質を生成する「オリゴデンドロサイト」と呼ばれる細胞の成熟・分化に異常が起きていました)

「絶縁体」部分が薄くなると、ニューロンの電気信号の送達がスムーズに行われなくなります。

そこでチームは、絶縁体部分を増加させることで知られる薬剤をマウスに投与してみました。

(※オリゴデンドロサイトを成熟させミエリン生産を促進する薬剤:フマル酸クレマスチンを投与)

すると、マウスのニューロンは正常な絶縁体を取り戻し、不安行動も大幅に軽減されました。

つまり、小分子「4‐EPS」によって、脳細胞が変形し、不安が引き起こされているということです。

腸内細菌のつくる特定の物質が脳細胞に引き起こす変化をここまで明確に示した研究はほとんどなく、非常に画期的なものと言えるでしょう。

そしてこの結果は、精神活動が腸内細菌の発する物質によってダイレクトに支配されていることを証明しています。

問題は、このような腸内細菌による脳の支配がヒトでも起きているかです。

そこでチームは人体での臨床試験に臨みました。