――夏の思い出や夏と聞いて思い浮かぶことは?

 セミ。夏と言えばセミだろう? …あぁそうだ、セミが羽化する瞬間って見たことあるかい? アレさ、天司が誕生する瞬間に似ていてね。繭が縦に割れて、半透明の羽を生やした柔らかい背中がするりと出て来るんだ。

 受肉したばかりの真っ新な身体は、それはそれは美しいものでねえ。空気に触れると徐々に硬化するんだけど、その段階になるまでは、ちょっと衝き動かせば簡単に崩れ去る。まるで豆腐かプリンみたいな触り心地で、つい弄り回してファーさんに怒られたもんだ。

 あぁ、で、何の話だったかな。