真ノ夜ノ黒刀(禍)

愛娘を亡くした男は愛刀を携え山に向かった。
山の上のご神体を斬れば最愛の者を生き返らせることができる、という伝説を信じて。

頂には黒泥で作られたヒトガタのご神体が、数え切れないほど存在していた。
男は手にした刀を握りしめ、雄たけびをあげて頂を埋め尽くす無数のヒトガタに斬りかかった。

黒泥のヒトガタを斬れば斬るほど、男の刀身も夜闇の黒に染まっていった。最後のヒトガタを斬り終えると崩れた黒泥が一か所に寄り集まり最愛の娘を形作った。男は黒刀を手放し、泥で出来た娘をその胸に抱きしめた。

「次はお父さんの番」と娘は男を指さした。次の瞬間、男の手足は剥がれ、胴は割れ、その顔がベチャリ、と地面に落ちた。
黒泥に還った父を前に、娘のようなナニカはケタケタと嗤いころげた。