そして運命の出会いから数週間。
 俺の頭の中にはいつも彼女がいた。朝起きれば目覚ましの音があの子の声に聞こえるし、夜眠れば夢に出る。当然貰ったクッキーは勿体ないので食べることなどできず婆ちゃんに貰ったお守りの中にご神体として封入している。
 しかし気紛れな運命様は俺たちの再会というイベントをなかなか用意しやがらない。なるほど運命(美少女)とやらは焦らしプレイがお好みらしい。それとも妬いていやがるのか? 可愛い奴め。
 べっ、別に焼餅なんて――はいはい、わかったわかった。俺は運命(美少女)をスルーして強制フラグを立てることにした。
 決意してからは早かった。
 俺は再会の日を来るホワイトデーに定め、初めてあの子と出会った駅の周辺を徹底的にリサーチした。
 数日に及ぶ張り込みの結果、遂にあの子を発見する。
 とはいえその場で直ぐに声をかけることなんてしない。何故なら俺は紳士だから。こんな人の多いところで運命の再会を果たすなどナンセンス。
 調査を続けたところ、あの子のバイト先を特定した。
 これが一つ目の爆弾。

「なん……だと……」

 あの子のバイト先はなんと、かの有名なカレーチェーン――ココ壱番屋だった。
 何を隠そう俺はカレーが大嫌いだ。
 あのスパイスの香りとグロテスクな見た目が生理的に受け付けない。
 とはいえ今の俺は愛の戦士。心境的には哀の戦士だったがそこは関係ない。
 首尾よく履歴書を製作し、俺は晴れてバイトの面接をクリアした。更に隙を見てシフト表を盗み見し、あの子のシフトを確認する――名前はリサーチの際に制服の胸についた名札で確認済みだ。
真っ平らな胸部のおかげで非常に読みやすかった。だがそれがいい。平地こそ人の安住の地。
運命の悪戯は完全に俺に味方しているらしい。あの子のシフトはきっちりとホワイトデーも出勤となっていた。
口八丁で初出勤をどうにかその日に合わせ、運命の時を待った。

 時系列は今に戻る。

 初出勤、そして俺の初恋ラブストーリーの始まりの一ページとなるこの日、俺はうきうきで出勤した。
 時間帯責任者に更衣室へ案内してもらい、そして――そこで運命のあの子と再会した。

 再会したのだ。
 ――男子更衣室で。

「はい?」

 惚けた声を出して俺は硬直する。

「え……? あーっ!」

 今まさに上着を脱ごうとするあの子が俺を指さす。
 それを見た時間帯責任者が「知り合いか?」などと聞いてくる。
 俺は答えられず、あの子が「クッキーの人です」とか答えていた。
 時間帯責任者はなら後は任せる、と言ってその場を去った。取り残された俺はまだフリーズ状態。

 ちょっと待って? ここ、男子更衣室だよね?

 これが二つ目の爆弾。

 結論から言おう。
 俺が惚れた相手は――俗に言う男の娘だった。