日光が燦々と照り付ける昼下がりのこと。
 晴れ渡る空模様とは対照的に少女の心境は暗澹としていた。
 オレンジの看板を前にして僅かに躊躇いながら、しかし決意を新たにして自動ドアをくぐる。
 じんわりと背中を濡らす汗が店内の冷房でひんやりと体温を奪った。

「いらっしゃいませー!」

 威勢のいい店員の声に思わず身が強張る。
 びくり、と肩を跳ねさせると同時に少女の豊満な胸と綺麗な黒髪が揺れた。

「一名様でしょうかー?」

「……えっと、あ……あの……はぃ……」

 消え入る声で少女が返答するも店内の喧騒に掻き消され、店員は頭上に疑問符を浮かべた。
 少女は耳まで真っ赤にしながら、こくん、と首肯する。ぱさり、と前髪が目を覆う。少し涙が滲んでいた。

「カウンター席へどうぞー」

 促されて少女はカウンター席へ向かう。
 腰を下ろすと背もたれがないことを失念していたのか僅かに体重を背後に傾け、危うく転倒しかける。
 少女がどうにか腹筋と背筋を酷使して仰向けになるのを堪えると、同時に店員が湯飲みを持ってきた。

「? ……ご注文お決まりでしたらお呼びくださーい」

 慌てる少女に店員が一瞬怪訝な雰囲気を見せるが、直ぐに湯飲みをテーブルに置いて踵を返そうとする。
 冗談じゃない。少女は思った。ここで店員を返してしまっては、注文の際声を張り上げて呼ばなければならないではないか。
 そんなことは出来ない。何故なら少女は極度のコミュニケーション障害だから。
 少女は俯く顔を上げ、スカートの端をぎゅっと握り締めながら万感の思いで口にした。

「――牛丼並み……つゆだくで……ッ!」