「なかなかエキサイティングだったわね!」

 週末、従兄に借りた軽自動車から降り立った姉貴は、そのように俺の初陣を評価した

「やけにゆっくり走ってたのがつまらなかったけど、そこを改善するならまた乗ってあげてもいいわよ?」
「俺はもうごめんだね」

 追い越し車線を走る車が前に出るたび、助手席からクラクションに手を伸ばすのと、信号待ちの間にマリオカートのスタートダッシュを強要してくることをやめてくれれば検討しないでもない。
 ショッピングモールにやってきた俺たちは、まず最上階へ向かった。
 上から順に店を走破していこうというのが姉貴の提案である。その提案には賛成だ。結局俺はユウキの欲しがっているものを調べ上げることができなかったのだ。
 適当に店を回っていればそれぽいのが見つかるだろう。
 四階建ての広い建物は、上二階がファッションフロア、下二階が雑貨や食品のフロアと言った感じで分かれていた。
 本命は上の二階だな。ユウキももう十四歳、お洒落な服とかを上げれば喜ぶだろう。
 その点、身内びいきを差し引いても姉貴はセンスがいい。ここは任せておこう。

「ちょっとこっち来て!」

 夕飯のメニューを考察していると、やおら姉貴が俺を呼びつけた。さっきまで服屋のお洒落なお姉さんと談笑していたと思ったが、お目当ての物でも見付けたのだろうか。
 呼ばれるままに姉貴に近づくと、俺の首にするり、と帯状の物が巻き付く。
 しまった刺客か! 必殺仕事人も舌を巻くほどの鮮やかな動作で姉貴の持つ組み紐が俺の首を締め上げた。

「なにバカなこと言ってんのよ。ちょっとしゃがんで。……あんた知らない間に背伸びたわね」
「ハル姉……なにこれ」
「なにってネクタイよ。見れば分かるでしょ?」

 そんなことを訊いているのではない。
 俺はなぜネクタイ何かを姉貴に巻かれているのかと訊いているのだ。

「あんたも来年から大学生でしょ。ネクタイの一つでもあった方がいいと思うのよ。……む、やっぱり派手な色はダメね」

 はい、次はこっち、と深緑色のタイを合わせられる。

「うーん……これもイマイチ。やっぱりはじめのにしましょ。本人が地味な分、身に着けるものは少し派手なくらいがいいわね」

 そう言って姉貴はまたしても不敵に笑った。あまりにも屈託のない笑顔で笑うものだからその前の皮肉に野次を入れるのが追い付かない。
 こういう時の姉貴は色んな意味で手に負えないのだ。