と、ここで一つ問題が浮上した。

「買い物はやぶさかではないが、俺、ペーパードライバーだぞ」
「だから? 大丈夫よ、事故っても死なない自信あるのよ、あたし」

 確かにこの姉は正面と後方からダンプにサンドイッチされても生き残りそうな気がする。いやしかし問題はそこではないのだ。俺は別に姉の安全を危惧したのではない。

「車はどうするんだ。一般的な高校三年生の俺は、当然マイカーなんて持ってねえぞ」
「そんなの借りればいいじゃない。あんた友達いないの?」
「俺の友達は大体俺と同じ境遇だ」
「だったらレンタカー……それかお父さんに借りましょう」

 名案を思い付いた、と言わんばかりに姉貴の笑顔が白熱灯からLEDに進化を遂げた。
 アホなことを言うな。こともあろうに親父が後生大事にしている、借金までして購入した車を俺のような路上童貞が運転していいわけがないだろう。
 そんなことをすれば、親父は折角の週末だというのに娘を誘拐犯に連れ去られた気分で全く休日を謳歌できずに下手をすれば精神を病んでしまう。

「俺には荷が重い」

 車の件はさておき、根本的な部分に俺は迫ることにした。

「つーか、なんで突然ショッピングなんだ? いやまあそれはいいが。なぜ俺なんだ?」

 そっちこそ大学の友達やら彼氏とでもいけばいいだろう、と皮肉っぽく言ってやる。

「ま、普通ならね。けど今回はあんたじゃなきゃダメなの」
「なんで?」
「ユウキの誕生日プレゼントを買いに行くからよ」

 ユウキ、とは、我が家の二女にして俺の妹だ。今年で十四歳になる。そういえば来週誕生日だったか。

「友達とか彼氏といっしょに妹のプレゼントを買いに行くってのもねえ……」
「それもそうか。……ところで姉貴、彼氏いるのか?」

 俺の問いに、姉貴は悪戯っぽく笑って答えた。

「さあ?」