>>147


「今週末、買い物に行くから!」

 夜。風呂から上がって自室で翌日の課題を片付けていると、藪から棒に姉貴が宣言した。

「好きにすればいい。後、勝手に入ってくるな。ノックをしろ」
「あんた暇よね?」

 こいつは俺の注意が耳に入らんのか。
 確かに暇である。しかしだったらなんだと言うのだ。本来なら受験真っ盛りのこの時期に、推薦で大学進学を決めた優秀な弟褒めたたえてもいいんだぞ?

「お母さんに聞いたけど、暇を持て余すばっかりに免許取ったそうじゃない」

 姉貴の口元が不敵に歪む。嫌な予感に背筋が冷たくなった。
 俺の悪寒をよそに、姉貴は核融合全開のような、溌溂とした笑顔で言った。

「あんた、今週末はあたしの荷物持ちだから!」

 何故そうなる。
 しかし俺の抗議は当然受け入れられず、図々しくも室内に侵入した姉貴は夜食のポテトチップスを強奪するとベッドに寝転がってしまった。出て行けよ。

「それでね、行先なんだけど」
「俺は出ていけと言ったつもりなんだが?」
「はあ? 出てったらどうやって計画を立てるのよ」
「適当にメールでも打ってくれ」
「嫌よ。同じ屋根の下にいるのにメールでやり取りするなんて、なんだかヒキコモリの弟思った気分になるじゃない」

 さらっと俺のことディスるの止めてくれない? 
 どうやら姉貴はどうあっても退室する気はないらしく、ならば、とっととこいつの要件を済ませてやるのが安穏へ向かう最短の道のりだろう。
 言っても聞かないのは今更分かり切ったことだしな。
 姉貴の計画はこうだ。
 週末、最近改装された近所のショッピングモールに行く。俺は荷物持ち兼移動手段のハンドルキーパー。予算がどこから捻出されるのかは考えたくもないね。