間合いを測る両者が得物に手をかけたのは同時だった。
 レヴィのカトラスが照準を定め、銀二が日本刀を鞘から抜き放つ――
 銃声を合図に二人が疾走を始めた。
 それぞれが手にする武器の間合いは異なる。
 銀二は刀身が獲物を両断できる範囲に詰め寄らんと巨躯を弾ませ、レヴィはカトラスの砲声で牽制しつつ絶対射殺の位置を保つ。
 放たれた弾丸はどれもが必中というわけではない。命のやり取りの中で極限まで研ぎ澄まされた銀二の感覚は放たれた弾丸の射線を反射的に予知した。それでも躱し切れない銃弾は切って捨てる。
 胸板を撃ち抜かんと迫る鉛球を両断し、ついにレヴィとの距離を殺す。
 牽制射撃を躱し振り被った日本刀を一息に振り下ろした。
 間合いに入られたレヴィに許された抵抗は、カトラスの銃身で銀二の斬撃を受け止めることだけだった。

「てンめぇッ……!」

 レヴィが悪態を吐く。
 必殺の一振りを受け止められたことで銀二が一瞬忘我する。刹那にも満たない瞬間的な硬直をレヴィは見逃さない。
 刀を受け止める銃身をわずかにずらす。それと同時に身を躱して斬撃の起動外へ離脱。
 銃口を獲物の脳天へ突きつけすぐさま発砲――しかし当たらない。直前で銀二の爪先がレヴィを撃ち抜く。体勢を崩された銃撃は石畳を抉った。
 蹴りの勢いを殺しきれずにレヴィが後退する。
 二人の対峙する距離は数秒前に戻った。

「……お嬢を……連れてくるじゃア……なかったなァ……」

 獣じみた笑みを浮かべて銀二が呟く。

「俺たちァとどのつまり……みんなこうだ、どこまで行ってもまともじゃア……ねェ」

 放つ言葉は殺意と狂喜を帯びていた。
 獰猛な感情が同類を前にして踊る。

「俺たち……みてぇのしか……いちゃいけねえェ……そういう場所だ……」

 語りかける。
 自らと同じケダモノは歯を剥き出しにして狂気を晒しながら聞いている。

「そう思わねェか、姉さん……!?」

 同意を求めたのは、少しでもこの昂揚を他者と共有したかったからだろう。
 銀二は感じていた。きっとこんなイカれた思考は、この女でしか理解しえないだろう、と。