アコンカグア顛末記その2
工場での仕事はつらいもので働き始めて数ヶ月経過しても体は週の中日である水曜日の時点で疲労困憊と感じるほどであった。
しかし約2分サイクルの作業を数千回と繰り返していると肉体的な負荷は大きくとも精神的には業務外のことを考える余裕が出てくるものだ。
一連の作業内容をほぼ自動化させて体を動かしつつも工場での勤務を終えたらどうしようかと思案する。東京で就職活動するか、昔のツテを辿って無難に働くか、それともまた旅に出るか等とふわふわと考えていたものだった。
しばしば発生する不具合や違和感を覚えた時は思案を中断し上司を呼び出して指示を仰ぐ。
これが日常になりつつあった。
ある日、突然脳裏に浮かんでくるものがあった。
再び旅に出よう。
そう次は南米だ。
せっかくなら何か挑戦してやろう。
前の旅ではエベレストベースキャンプまで行き、ニュージーランドの南島やアイスランドをレンタカーで一周した。
次は何をする?
登山か?


アコンカグアはどうだろう?
以前ネットで見たことがある。
アルゼンチン中部、チリとの国境付近に座するこの山は標高6962m南米最高峰にしてヒマラヤ山脈以外では地球上で一番高い山である。
一見難易度が高く、冬山はもちろん富士山すら登ったことのない私には到底無理なものに思えたが、夏期の通常ルートであれば特別な登山技術を必要とせず、比較的安易に登頂出来ると説明されている。
これだ!次は南米大陸で最も天へ近い場所に己の足で立ってやろう。
そう決めて次の旅の計画を立てながら仕事をこなす日々が始まった。