>>390
「あの菩提樹の繁みの間から見える白い建物、あれがジョホール王の宮殿です。
ジョホールの王さまは、わが 徳川義親 侯爵と大の仲よしで、かつて日本へも來られたことがあります。
とても親日家だったので、今度の戰爭には、イギリスに捕へられない前に皇軍に救ひ出されたので、
大へんよろこんでゐられるさうです。」

僕たちは、王宮へは行かず、左の方の丘へ上りました。
そこには白亞の尖塔が天高くそびえてゐました。これは回ヘの寺院ださうです。
殿堂の中は200畳敷もあるかと思はれる大廣間で、すっかり大理石を敷きつめてありました。

「あの天井をごらん。あれはアラビヤ文字の模様ださうだよ。」

伯父様の指さされる方を見上げると、きれいな模様で飾られた天井から、
切子硝子のきらきらする吊燈籠が二つ下ってゐました。