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檣頭高く日章旗のはためいてゐる軍艦や輸送船が、廣い港のあちこちにたくさん碇泊してゐました。
捕虜となったインド兵やオーストラリア兵らは、
埠頭の取りかたづけや、出入する船の食料や、燃料の積込みに働いてゐました。

ドックの横の重い起重機は、滑車の音も勇ましく、港内には建設の響が高鳴り、
港務部の發動機船は、まるで海燕のやうに、船の間をぬって静かな海の上を走ってゐました。
よく見るとその運轉手はみな赤いひげに碧い眼をしてゐるではありませんか。

「ごらんよ、あの運轉手は自分から降服を申しでたイギリスの機關兵なのですよ。
あまりにたよりない自分の国にあきれ、降服して、いまは人手の少いこの建設の手助けをしてゐるわけだ。」

錨の腕章をつけて、得意氣な原住民の工員たちに比べて、捕虜運轉手の表情は、
まことに情けないやうに見えました。