「努力と才能で、人は誰でも成功できる」。ほとんどの人はこう聞いて、何の疑問も持たないだろう。
実際、私たちの多くは「成功する人は努力をしている」という価値観の中で生きてきた。
競争環境が平等であれば、成功するか否かは個々の努力や才能にゆだねられる、と。

しかし、NHK『ハーバード白熱教室』などで知られる、哲学者のマイケル・サンデル教授から見ると、この能力至上主義の考えの裏には、
「成功をしていない、社会的に認められない人は、努力してこなかった責任を負っている」ということになる。
そしてこれは、真面目に働いていても、グローバル化やデジタル化の影響を受けている人が、
「努力をしなかったから」と尊厳を奪われ、エリートから見下されていると感じる状態を作ってしまった。
サンデル教授はこれがアメリカなどで見られるエリートと労働者の分断の本質だと説く。

経済成長に重きを置いた能力主義が招いた分断は解消できるものなのか。
能力主義に変わるものはあるのか。そして、誰もが尊厳を保てる社会とはどういうものなのか。
『実力も運のうち 能力主義は正義か?』を上梓したサンデル教授に聞いた。