世界遺産登録を「地方再生の妙薬」だと思ったら大間違いだ。富岡製糸場は世界遺産に登録された2014年には年間133万人以上の来場者がいたが、
2017年にはその半数以下に落ち込んでいる。東洋文化研究者アレックス・カー氏とジャーナリストの清野由美氏は「自分たちの町や地域の遺産を
いかに観光のために整備するか、統括的に考える必要があった」と指摘する――。

(中略)

観光振興をテーマにしたある集まりで、群馬県から来た人と話す機会がありました。

群馬にある世界遺産といえば、2014年に登録された「富岡製糸場と絹産業遺産群」が有名です。登録が決まったときに、観光客が大勢並んでいる
ニュースを私は見ていましたので、「世界遺産に登録されたらされたで、大変なことですね」と話しかけたところ、相手の方からは「いや、もう熱は冷めました」
と意外な返事が返ってきました。

富岡製糸場の来場者数は3年で半数以下に落ち込んだ

事実、『読売新聞』の記事(2018年6月25日朝刊)によると、富岡製糸場は世界遺産に登録された14年、年間133万7720人もの来場者がありましたが、
2年後の16年度にはそこから4割減少し、17年にはついに半数以下に落ち込んでしまっています。

人口約5万人の富岡市にとって、富岡製糸場が持つ観光的な価値は財政面でも地域維持の面でも大変に重要です。
一方で世界遺産登録を維持するため、その修復・管理にかかる費用はこの先10年で100億円にも上るとされています。
それなのに、その原資となる入場者数が下降線を描いていることで、目算が大きく狂い始めているのです。

富岡製糸場の事例を踏まえて言いたいのは、自分たちの町、地域の遺産をいかに観光のために整備できるか、
より総括的に考える必要があるということです。もしくは世界遺産への登録が、本当の意味で観光振興につながるのか、
熟慮が必要です。

地元の人たちや関係者たちが、それらの問いを吟味した先に、世界遺産登録の本来の意味は生じます。
そこを詰めないまま、「世界遺産登録=観光客誘致の切り札」と短絡させるだけでは、物見遊山的にやってきて、
「失望した」と文句を拡散する人を増やすだけです。

全文
https://president.jp/articles/-/27986