森本健太郎さん(仮名)は、IT会社に勤める32歳。東京都内で10年ほど働いたのち、結婚し、現在は妻と共に生まれ故郷である佐賀県で暮らしている。
6月に掲載した「僕は『戦争論』を誤読したネトウヨだった」の内田大輔さんから、「僕よりもっとガチな感じのネ
トウヨ卒業者の方がいらっしゃいます」とご紹介いただき連絡をとったところ、気さくに取材に応じて下さった。
「はい、僕はちょっとガチな感じでした。2009年の習近平来日時は、抗議デモに駆け付けて、日の丸振ってましたから……」
“暇な時間”ができたとき、昔1冊だけ読んだ井沢元彦をなぜか思い出す
森本さんは、なぜネトウヨ活動に高じていったのか。その出発点は一冊の本だった。
「高校時代は、本なんか全く読まない人間だったんですよ。ところが同級生が、ゲームの会社に就職したいんだと
言って本を読み出して、オカルトチックなジャンルにハマりはじめたんです。その中に、井沢元彦の『言霊(ことだま)』
という本がありました。買い間違えたんだけど、面白いから読んでみたらと渡されたんですよ」
井沢元彦『言霊 ――なぜ日本に本当の自由がないのか』は、言葉に出したことは現実になる、縁起の悪い言葉を避
け、良い言葉を使っていれば、実際の結果が連なってくるものだという古来の言霊思想を取り上げ、その言霊思想に
呪縛されることによって生じているとされる日本のいびつな社会現象や政治状況について言及した本だ。
「この本の中に、戦争をやりたくないからと言って、『九条、九条』と言霊のように唱えていれば戦争がなくなる、
という考え方はおかしいということが書いてあったんです。要は護憲主義じゃだめだという主張なんですが、なるほど、これはちょっと面白いなと納得するところがあって記憶に残りました」
その後、高校を卒業し、IT会社に就職。新生活ではたくさんの仕事を覚えなければならず、本離れしていたが、徐々に時間に余裕が生まれはじめる。
「エラーが起きた時に対応するという業種でしたから、仕事に慣れてしまうと、暇な時間がすごく増えたんです。
会社の先輩たちは、みんな本を読んでいました。読みたいなら勝手に読んでいいよと言われて、最初は先輩たちが
置いていったミステリーの本を読んでいたんですけれど、とにかく暇で、もうちょっと面白いものを読みたいと思うようになって。
でも、もともと読書の習慣がありませんから、どんな本を買えばいいのかがわからない。そこで、『そう言えば
井沢元彦の本があったな』と思い出したんです。本来、働いて金をもらうべき時間帯に娯楽本を読むのは気が引け
るという感覚もありましたし、そうだ、井沢元彦なら真面目でいいじゃないか、と」
先輩のミステリー本か、井沢元彦か。この時は読書の選択肢が二択しかなかった森本さん。だが、ここから猛然と本を読むようになる。
http://www.gentosha.jp/articles/-/10990