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最低賃金を大きく上げれば勤労者の所得と消費が増え、企業の生産が増加し、雇用が創出される好循環が形成されるのか。
噴水効果(Trickle−up effect)という高尚な表現も使う。
各種手段を動員して大声を出せば事業主はやむを得ずついてくるのか。とんでもない。
食堂・チキン店・コンビニエンスストアの自営業者も、零細業者も、中小企業人も、事業をする人も、「そうではない」ということは身をもって知っている。

彼らは来年の最低賃金「8350」ウォン(約835円)をただの数字ではなく危機のメッセージと読んでいる。
人件費の支出が増えて稼げない状況がくるから計算機をたたけという警告とみている。
経済は心理という。「人格」を捨てて緊縮と人員削減の誘惑に近づけという商売人の動物的本能が作動する。
雇用と解雇は善悪の道徳的レベルではなく実存的な問題であるからだ。
17年ぶりの最悪の失業率と過去最大の失業給与支給額がその兆候を語っている。
「8350」は雇用という時限爆弾の雷管に触れたということだ。

最低賃金の逆襲は約220年前のフランス大革命当時にあった有名な「半額牛乳事件」を思い出させる。
恐怖政治をしたロベスピエールは革命支持勢力だった庶民のために牛乳価格を半分に引き下げるよう命じた。
その後、牛価格の暴落→牛飼料価格の騰落→牛乳価格の暴騰という連鎖反応を招き、結局はロベスピエールを没落させた。
歴史から教訓を得ることができないのが歴史の教訓といった。所得主導成長が似た運命を迎えている。
賃金引き上げは職場不安定→物価上昇→消費冷え込み→景気後退を経て実質所得を減少させる悪循環の沼に向かう。
不平等と二極化を解消しようという善意だったが、庶民の不安定な職場をさらに脅かしている。

文在寅(ムン・ジェイン)政権が展開する社会主義的分配の正義に共感する。
111年ぶりの猛暑の中で眠れない屋根裏部屋の人たちを心配し、貧しい人たちにもう少し分け与えようということに誰が反対するだろうか。
ところが実物経済をよく知らない運動圏と市民運動家、世情に疎い学者の絶妙な組み合わせが現実とかけ離れた机上の空論を実験している。

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http://japanese.joins.com/article/737/243737.html