すしまみれA

あれから十年たって今、こうして、たまに川本と飯に行くときもやっぱりすしまみれだ。
ここ何年か、こういう安い寿司屋に行くのは川本と一緒のときだけだ。
別に安い店が悪いというわけじゃないが、ここの寿司はどぶ川の鯉みたいなもんだ。
質の悪い、不衛生な料理は、毒を食っているような気がしてならない。
なあ、別に板前が居る店でなくたっていい。
もう少し金を出せば、こんな残飯でなくって、本物のシャリとネタを出す店を
いくらでも知っているはずの年齢じゃないのか、俺たちは?
でも、今の川本を見ると、
川本がポケットから取り出すベトベトの百円玉三枚を見ると、
俺はどうしても「もっといい店行こうぜ」って言えなくなるんだ。
川本が歌い手ダメになったの聞いたよ。喉潰したのも知ってたよ。
仕方なく転がり込んだ弟宅で、7桁も年収の違う、弟一家の中に混じって、
使えない粗大ゴミ扱いされて、それでも必死に卑屈になってニート続けているのもわかってる。
だけど、もういいだろ。
十年前と同じすしまみれで、十年前と同じ、努力もしない夢を語らないでくれ。
そんなのは、隣の席で浮かれている幼児どもだけに許されるなぐさめなんだよ。