劇薬の緩和策重いツケ


黒田東彦氏が日銀総裁に再任され、2期目がスタートした。黒田総裁は金融緩和の継続を明言したが、市場ではその副作用への懸念が
膨らむ。問題視されているのが、日銀が年に6兆円のペースで買い進めている上場投資信託(ETF)だ。残高は株式市場の4%弱に
のぼる。中央銀行によるETF購入という劇薬を用いた金融緩和策をどう収めるのか。

「買いっぱなしなんてありえない。どう売却するイメージを持っているのか」。3日の衆院財務金融委員会で詰め寄る野田佳彦元首相
に、黒田東彦日銀総裁は事務方のメモを淡々と読み上げた。「まだその時点にはない。将来検討される」

日銀はリスクプレミアムの縮小を目指し、2010年にETFを買い始めた。13年に黒田氏が総裁に就くと、物価を2%に引き上げる手段となる。いまや市場で「クジラ」とも呼ばれる日本株最大の買い手となった。

しかし購入を始めた当時の白川方明総裁が「異例性が強い措置」とくぎを刺したように、中銀の常識では株式購入は禁じ手に近い。国
債など様々な金融資産を購入してきた米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)も避けてきた。

国債はいずれ償還を迎え元本が戻るが、買い入れた大量の株式は売るしか出口がない。市場を混乱させずに処分するのは至難の業だ。

リスクが高いうえに物価上昇への波及効果も見えづらい。株価が上がれば株を持つ家計が潤い、個人消費が活発になる。企業経営者の心理も前向きになって設備投資が増えて物価が押し上げられる――。日銀はそんな期待を寄せているようだ。

「程度は測りづらいが株高は景気や物価に何らかのプラス効果があることは確かだ」(日銀幹部)。ただ金利引き下げと異なり株価上昇に伴う恩恵は富裕層や上場企業などに限られる。「アベノミクスを支える点で仕方ないが本来は早く手を引くべきだ」。行内にはそんな意見が多い。

「今すぐやめると大変なことになる。でもずっと続けるともっと大変なことになります」。民間金融機関の幹部から助言にもな
らない助言が日銀に寄せられる機会も増えてきた。民間の自由な取引で決まる株価を巨額の公的マネーでゆがませればバブルを日銀が引き起こすリスクが膨らむ。

だからといって購入額を減らせば株安を招き、政府や企業からの反発が強まるおそれがある。16年7月、英国の欧州連合(EU)離脱決定後に株価が急落すると日銀はETF購入額を倍増させた。それから株価が当時より3割以上も高くなった今でも、日銀は買い入れ額を戻せていない。

2%の物価上昇率は遠い。年6兆円もの購入がずっと続けば19年末には保有残高は日銀の自己資本の4倍強になり、日本株全体の5%を握る。

副作用があることは自明だったはず。現状は「大きな問題は生じていない」(黒田総裁)が、続ければツケが膨らむばかりだ。
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO29207050Q8A410C1SHA000